<アウトコース低め>

pressココロ上




 楽天がリーグ優勝をしましたが、感慨深いものがあります。僕は取り立てて楽天が好きというわけではありませんが、球団創立1年目の大敗ぶりが記憶に残っていますので、感慨を感じる次第です。
 今でも蘇る映像があります。それは田尾監督がダッグアウトの中で呆然と天を仰ぐ仕草です。今回の優勝で創設1年目の成績を振り返っている記事が多いですが、1年目はなんと39勝97敗1分でもちろん最下位です。しかも、5位との差も25ゲームという惨憺たる結果でした。さらにつけくわえるなら、開幕2戦目は歴史に残るスコアといわれ、なんと0対26というプロ野球の公式戦とは思えない試合結果でした。
 そんな歴史を乗り越えての今年の優勝ですから、関係者の喜びがひとしおなのは容易に想像がつきます。その優勝の貢献度でいうなら田中将大投手がMVPであることに異論のある人はいないでしょう。最後の打者へのアウトコース低めへのストレートは圧巻でした。
 僕は試合をリアルタイムで見たことは一度もなく、ニュース番組のダイジェストで見るのが常でした。ですから、田中投手がどういう投げ方をしているかなどは全く知りませんでした。しかし、入院中のラジオで興味深いことを聴きました。それは田中投手の投球術についての解説です。
 田中投手が今年好成績を残している一番の原因は「ファーストストライクの取り方にある」と解説していました。先に、最後の打者への投球について紹介しましたが、まさにリーグ優勝を決める最後の一球になったアウトコース低めのボールです。まさにそのボールが今年の好成績の理由と解説していました。
 解説氏によりますと、田中投手はいとも簡単にファーストストライクを取るのだそうですが、それを可能しているのがアウトコース低めのストライクだそうです。バッターの立場からにしますと、追い込まれるまではできるだけ打ちやすいボールを待つのが普通の考えです。最初から難しいボールに手を出すバッターはいません。田中投手はそこをついてやすやすとストライクをひとつとります。アウトコース低めでストライクがとれることが大きなな武器になっています。今年の田中投手はなにかのきっかけでそのコツを習得したのでしょう。
 ラジオでこの解説を聞いていて僕は思い出しました。かつて阪神で活躍し、その後南海、近鉄で優勝請負人といわれていた江夏豊氏が同じようなことを話していました。
「ピッチャーの生命線はアウトコース低めや」
 しかし、この言葉に生命力を持たせるためには、ボールに力があることが大前提です。いくらアウトコース低めでストライクがとれてもボールに力がなければ、プロの世界では通用しません。そのことを実感したのは江夏氏が大リーグに挑戦したときです。江夏氏は現役最後の年に大リーグに挑戦しています。まだ野茂投手が大リーグで大活躍する以前のお話です。大リーグの試験を受けたのですが、結局採用には至りませんでした。もし、全盛時代の江夏さんであったなら間違いなく大リーグでも通用していたと想像するのは僕だけではないでしょう。
 僕が野球大好き人間であるのはコラムを読み続けている人はご存知でしょう。なにを隠そう僕は東京ドームができる前の後楽園球場で野球の試合をしたことがあるのです。これが僕が唯一自慢できることです。
 小学校の頃から球技全般が得意でした。その中でも野球は大好きで小学校の大会で優勝したこともあります。僕はその試合で3塁打を2本打って賞をもらったことさえあります。
 その僕が大学時代にソフトボール大会に出場した自慢話をします。
 大学生になり新たな環境で新しい歩みを踏み出そうとしている新入生たちを迎えるために学校主催でソフトボール大会が催されました。まだ学校生活に馴染んでいなかった僕たちはクラスでチームを作り参加しました。スポーツを通じてクラスを結束させるためです。
 僕たちのチームは打撃が上手な選手が多く、一試合目二試合目と乱打戦を制して勝ち進んで行きました。なにしろ素人がやるソフトボール大会ですから、特段に速いボールが投げられるわけではありません。ですから、どうしても乱打戦になります。
 ところが、三試合目に対戦した相手のピッチャーが桁外れの速さのボールを投げる選手でした。噂によりますと、高校時代にソフトボールで全国でベスト8に入ったことがある実力者でした。とにかく速い。体感速度は150kmを越えていました。投げるフォームが素人離れしていました。女子ソフトボールの上野投手と同じ投げ方です。腕をぐるっと回して右足の蹴りの力をボールに伝える身体の動きしてスナップを利かせて投げる、あの本式のフォームでした。僕たちのチームは全員が振り遅れです。振り遅れどころかバットにかすることさえできない有様でした。
 こんな状況で乱打戦になりますと、相手チームだけが乱打することになります。これでは勝ち目はありません。僕たちのチームのピッチャーは遥か遠くまで飛んでいく打球の行方を見つめるしか術がありませんでした。
 ピッチャー交代です。3塁を守っていた僕が投げることにしました。僕はこのとき頭の中に、ある作戦がありました。それは対角線投法です。
 相手チームのバッターは全員、緩い真ん中あたりに投げられてくるボールを打つことに慣れていました。ボールのコースなどに意識することなく、ただ真ん中あたりにくるボールを打つだけで面白いようにボールは遠くまで飛んでいっていました。打席も3巡目くらいではホームランを狙う選手ばかりになっていました。つまり、全員が大振りをすることしか考えていなかったことになります。
 もちろん僕も本式ソフトボールの経験はありません。相手チームの投手のように速いボールを投げられません。ですが、コースを投げ分ける自信はありました。僕はインコース高めとアウトコース低目を交互に投げることにしました。
 結果を先に言ってしまいますと、この作戦は大当たりでした。それまでずっと真ん中あたりにくるボールを強引にでもバットに当てさえすればホームラン性の打球を打つこと慣れていた相手チームのバッターはボールのコースに無頓着になっていました。
 僕が投げていたボールはインコース高めとアウトコース低めです。しかし、そのことに気づいていない相手バッターはそれまでと同じ感覚でバットを振っていました。ですから、ほんの微妙にですが、バットの芯でボールを捉えることはできていませんでした。
 残念ながら試合には負けてしまいましたが、僕がピッチャーをやってからは得点を許さなかったことがせめてもの救いです。
 ついでに草野球でのピッチャーが意識しておいて損はないコツをお教えします。ピッチャーが大切にしなければいけないのはリズムです。
 僕は社会人の第一歩はスーパーですが、その会社で店対抗の野球大会がありました。そこでも僕は3塁を守っていたのですが、そこからピッチャーの投げ方を見ていてあることに気がつきました。
 そのピッチャーの急速は普通の人よりは数段速く、野球があまり得意でない人には間違いなく通用する速さでした。つまりバッターが振り遅れるほどの急速でした。ですから、バッターの半分くらいは空振りの三振をしていました。草野球のレベルですから、野球が得意でない人が参加することとこういうことは珍しいことではありません。
 ところが、そのピッチャーが4回くらいからボールをバットに当てられるようになってきました。それまで振り遅れて空振りをしていたバッターまでもがボールに当てるようになったのです。そして、7回に突如連続でヒットを打たれてしまいました。
 ピッチャー自身も不思議なようでした。確かに、7回ですから疲れもあったでしょうが、目に見えて遅くなったというほどでもありませんでした。それでもヒットを打たれているのは事実です。
 そのときに僕は気がつきました。いつの間にか、ピッチャーは投げるリズムが一定になっていたのです。ボールを投げるリズムです。腕を振りかぶってから足を上げ、そしてその足を地面に着地させるのと同時くらいに、胸を張り後方に反らしていた右腕を前方に向かって振り下ろす動作が同じリズムなっていました。常に、「イチ、ニ、サン」でした。ですから、バッターも無意識のうちにバットを振るタイミングが合い、ヒット性のあたりが続いていたのでした。
 僕はマウンドにかけより声をかけました。
「投げるリズムが一定だからタイミングが合ってるみたいだよ」
 ピッチャーは僕のアドバイスを受け入れてくれ、「イチ」をわざと「イ~チ」としてみたり、「イチ」のあとにわざと間隔を入れてみたり、リズムを変えて投げるようにしました。案の定、バットに当たらなくなりました。
 僕は、対角線投法やリズム変換投法といった手法でバッターを抑えることができましたが、こういった手法が誰にでも通用するか、といいますとそれは違います。こういった手法が通用するのは実力がある程度、伯仲していることが条件です。実力が違い過ぎますと、絶対に通用しません。所詮は小手先の戦法だからです。
 田中投手がアウトコース低め投法が通用するのも、その大前提としてボールにスピードとパワーが備わっているからです。それなくして、アウトコース低め投法はあり得ません。
 最近の安倍首相を見ていますと、自分のアウトコース低めを掴んでいる感があります。もちろん実力も備わってのことですが、僕には余裕を持っているようにさえ感じられます。そして、最近の特徴として印象に残るのは原稿を読む姿です。全幅の信頼をおいて原稿を読んでいる印象があります。つい最近では「Buy my アベノミクス」などが好例です。
 原発の問題から経済の問題、そして外交など八面六臂の活躍とは今の安倍首相のことをいうのではないでしょうか。確かに、原発処理に対するコントロール云々の問題はありますが、それを差し引いても丁寧にアウトコース低めへ投げてファーストストライクを取っているように見えます。
 それを可能しているのは現在の安倍首相の周りを取り巻いている陣容です。よ~く、安倍首相のうしろを見渡してみますと、自民党の重鎮といわれる人材がしっかりと配置されています。近年、稀に見る好状況に囲まれている首相です。
 じゃ、また




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