<郷に入れば郷に従え>

pressココロ上




 先週は日本シリーズでの田中投手の奮闘振りに注目が集まりましたが、その少し前には米国でも海を渡った日本人投手の活躍がマスコミをにぎわせていました。ワールドシリーズで元巨人のエース上原投手が胴上げ投手になったことです。MVPこそ取れませんでしたが、その活躍ぶりは誰の目から見ても明らかでした。
 TBSではニュース23の番組冒頭で上原投手の歓喜の瞬間を伝えていましたから、その注目度がわかります。僕は1週間を通しますとニュース番組から日曜早朝に放映されているニュースバラエティまでTBSを見る機会が多くなっています。その慣習が影響しているのかもしれませんが、上原投手はTBSとは特別に仲がいいよう思います。ワールドシリーズを戦っている最中でもまるでプライベートのようなインタビュー映像が放映されていたからです。上原投手と格別に懇意にしている記者がいるような印象を受けますが、実際のところはどうなのでしょう。
 その上原投手についていろいろなマスコミが様々に分析をして賞賛していますが、その賞賛されている点は上原投手が今年残した成績です。シーズンがはじまった当初はセットアッパーでしたが途中からクローザーになりその役目をしっかりと果たすようになっていきました。そうした実績がさらに信頼を生み、抑えの切り札になっていました。
 ですから、数字の上で注目されたのはセーブポイントであり、そしてあとひとつはK/BB率という指標でした。これは「四球を与えるまでにどれだけの三振を取っているか」を示す数字だそうですが、この数字がダントツによいらしく上原投手の評価を高めている一因になっているそうです。
 先日読んだネットでの記事によりますと、上原投手は日本にいる時代から四球を出さないことで優れていたそうです。そのコントロールの素晴らしさが大リーグで活躍できた大きな要因のひとつと書いていました。
 このように、上原投手の活躍ぶりに関しては、いろいろなマスコミおよび報道でその成績を褒め称えています。今の時代は、なにかを証明する際は数字を示すことが求められ、さらに最近は統計学が注目されていますので、その社会的流れに合わせたように数字による分析が読者や視聴者に納得感を与えています。
 確かに、数字を示して分析したほうが上原投手の好成績ぶり、または賞賛されぶりを伝えることができるでしょう。しかし、僕は上原投手が活躍できた一番の原因は数字を出す前の気持ちの持ち方や振る舞いにあったと思っています。それらがなければ、活躍する場を与えられることもなかったはずです。
 以前、コラムで紹介したことがありますが、上原投手がTBSの日曜早朝の番組での張本さんの「渇コーナー」に出演したときの言葉が印象に残っています。
 番組内で張本氏は上原投手に苦言を呈していました。それは、上原投手が顎一面に生やしていた髭に対してでした。上原投手は今は剃っていますが、米国に渡った当初は髭を生やしていました。それほど強い口調ではありませんでしたが「髭は剃ったほうがよい」とたしなめていました。それに対して上原投手も真正面から受け止めたような口ぶりではなく、冗談交じりに応じていました。
「髭を生やしてないと、日本人はなめられるんですよ」
 このような内容で答えていたように記憶しています。
 あのイチローさんでさえチーム内に完璧に溶け込むことは難しかったことが週刊誌などの見出しに踊っています。たぶん、日本選手が大リーグで成功するための最初の難関は日本人であることなのかもしれません。マスコミを通じて伝えられるニュースなどからはそんなことが感じられます。
 今回、上原投手の活躍を伝えるときに必ず出てくる言葉に「ハイタッチ」があります。最後の打者を打ち取ったあとにキャッチャーとするハイタッチです。日本人である僕からしますと、いかにも外人らしいパフォーマンスと映りますが、上原投手は必ずハイタッチをしていました。
 上原投手は大リーグで成功するために最初に必要なことは「チームに溶け込むこと」と考えていたように思います。そのために必要な儀式が、あの大げさなハイタッチです。まるで喜んでいることを周りの選手たちに伝えることが日本人にとって最も必要な能力であるかのようでした。
 そんなことを考えていましたら、サッカーの長友選手が話していたことを思い出しました。長友選手はゴールを決めたあとに「お辞儀をする」パフォーマンスをしますが、ある番組でその理由について語っていました。
 やはりサッカーの世界でも、欧州に渡ったときには「日本人であることを意識させられる」洗礼を浴びるようです。ですから、最初にやらなければいけないことはチーム内に溶け込むことです。そして、それは数多くいる移籍選手同士の「チームメイトとの溶け込み競争」に勝つことを意味します。それができて初めてプレーでの競争のスタートラインに立てるのです。
 どこの世界にいっても「郷に入っては郷に従え」が基本的生き方であることは万国共通のようです。
 因みに、「世界」とはいろいろな仕事という意味の「世界」と地理的な意味での「世界」の両方にかけています。
 じゃ、また。




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