<CEOと他人事>

pressココロ上




 日経ビジネスに流通グループイオンに関する記事が載っていました。率直な感想は、あれほど大きな企業であっても安泰としてはいられないことが驚きです。しかし、1990年代からすでに大企業の倒産は起きていましたので驚くべきことではないかもしれません。ですが、7&Iグループ とともに日本における流通業の双璧といわれているイオングループです。その企業が苦境に立たされているという事実はやはり不思議な気分になります。
 記事によりますと、イオンのPBであるトップバリューの種類をかなり減らすようですが、PBというものの限界を示しているのかもしれません。大分以前このコラムで書きましたが、僕は小売業が製造業に進出しすぎることに賛成ではありません。やはり「餅は餅屋」であるのが本来あるべき社会のあり方と思っているからです。
 その一番の理由は小売業の存在意義を考えるからです。小売業は製造業ではありません。小売業は世の中にある商品を消費者に届ける仲介役です。そして、その仲介役の一番の役割は消費者に対して「選択の幅を広げること」と「安全性を確保すること」です。そして、この2つを担保するためには中立であることが必要です。
 小売業が製造業に進出することはこの中立という役割を放棄することにつながります。普通に考えるなら、PBの販売に重点を置きたくなるのがビジネスとしての感覚です。粗利益率が全く違いますから当然の判断です。実際にイオンやセブンの店舗にいきますと、売り場の一定の割合をPBが占めています。しかもお客様の目に付きやすい場所に並んでいます。これではPBが有利になるのは当然です。中立とはいえない状況になっています。
 例えていうなら、新聞などマスコミが自分たちの関連する事業について記事を書くのと同じです。それでは記事ではなく広告となってしまいます。
 このように本来なら有利なアイテムであるPBをイオンは減らすのですから、僕の考えからしますと歓迎すべき展開ということになります。実は、こうした流れは僕がスーパーに勤めていた30年以上前とほとんど変わりありません。
 当時からPBは販売されており、ブームのように各チェーンが独自のPBを販売していました。しかし、数年経ちますと自然と消えていきました。その理由は「安かろう、悪かろう」が原因でした。そうした繰り返しが数年おきに起きていました。ですから、現在おきている小売業のPBブームと今回のイオンの見直しもこれまでとなんら変わらない動きように僕には思えてしまいます。
 そんな中、7&IグループはPBが好調なようですが、その一番の要因はコンビニにあるように思います。そしてさらにいうなら、グループの業績を左右しているのもコンビニの業績にあると思っています。
 実際、7&Iグループといえども総合スーパーの業績は芳しくありません。それを補っているのはコンビニの好調さです。イオンはそのコンビニが弱いのですから業績が悪くなるのも当然です。
 わざわざいう必要もありませんが、現在の7&Iグループの会長は鈴木敏文氏ですが、氏がトップまで上り詰めることができた一番の要因はセブンイレブンというコンビニを成功させたことです。
 コンビニの歴史を綴った書物を読みますと、セブンイレブンはヨーカドーよりも先にダイエーの中内氏に話が持ち込まれたそうです。それを中内氏が断ったためにヨーカドーに話がいき、そして現在のセブングループの隆盛があるのですから世の中はわからないものです。
 そのときにセブンイレブンの提携を決めたのが鈴木氏ですが、最初は反対されたそうです。それを説得しての提携ですから鈴木氏の先見の明が素晴らしかったことになります。
 セブンイレブンの大成功以降、鈴木氏はIYグループはもとより小売業界の第一人者になったわけですが、僕には不満があります。今回の日経ビジネスでもインタビューに答えていますが、その受け答えでも僕は不満を感じました。
 鈴木氏はセブンイレブンの成功で親会社であるイトーヨーカドーの社長、さらにはIYグループのCEOになったのですが、イトーヨーカドーの社長を務めていた時代にコンビニほどの成功を収めていたわけではありません。確かに利益率などを向上させたのは確かですがコンビニの業績ほどではありません。
 そして、持ち株会社であるIYグループのCEOに就任しているのですが、現在の立場での発言がどこか他人事のように感じてしまいます。例えば、日経ビジネスのインタビューで「総合スーパー部門であるイトーヨーカドーに対して業績が悪いままだとグループから追い出すぞ」などとユーモアを交えながら話しています。これはまるで、業績がよくない責任が全く自分にないような発言です。僕はそこに違和感を持ちます。
 鈴木氏は元伊勢丹の名物バイヤーを衣料部門の責任者にしたり、元成城石井の社長をフード部門の責任者にしたりなど優秀な人材を引っ張ってきてはいるのですが、業績は今ひとつ芳しくありません。その責任は誰が負うのでしょう。
 一般の企業ですと、企業の業績が悪かったならその責任は最高経営責任者が負います。例えば、ある部門の業績が悪かった場合、直接の責任は部門長ですが、最終責任は最高経営責任者にあります。ですから、最高経営責任者は業績を悪くしている当事者であり、他人事のように論評することはあり得ません。ですが、現実問題として7&Iグループではそうしたことがあり得ています。
 経営者は本来、当事者ですから業績が回復する対策を考えるのが仕事のはずです。しかし、まるで評論家のような発言に終始する姿勢は経営者ではありません。そして、そのことを誰も批判することができないようです。
 鈴木氏がいろいろなところで発言していることのひとつに「過去の成功にとらわれてはいけない」というものがあります。ですが、僕からしますと最もとらわれているのは鈴木氏のように映ります。コンビニの成功したやり方が頭から離れないのです。
 最終責任者は業績をアップさせるような対策を考えて初めて責任を果たしたことになります。単に部門の責任者を叱責したり交代させたりするだけであるなら、それは経営者ではなく投資家です。ましてや抽象論しか話さないのは評論家やコンサルタントと同じです。無責任の謗りは免れないでしょう。
 たぶん7&Iグループの社員で中堅どころの人たちは仕事帰りに居酒屋で僕と同じようなことを話してるだんろうなぁ…って想像しています。
 じゃ、また。




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