<森山先生>

pressココロ上




 今からもう50年くらい前のことですが(笑)、僕が小学校高学年のときの担任は当時40代半ばで明るく優しい黒縁の眼鏡が似合う男の先生でした。なにしろ50年も前なので自信はありませんが、名前は森山だったような気がします。ただ子供心に恐いとか嫌味ったらしいとか悪い思い出は残っていませんので全体的にいい先生だったように思います。
 その森山先生は生徒が悪いことをすると、生徒の両方のもみ上げをそれぞれ上のほうに指でつまみ上げる罰を与えていました。それも決して強くするわけではなくちょっと痛い程度の罰ですので、僕たち生徒たちも恐怖心というよりは面白がる気持ちのほうが強かったと思います。つまり生徒たちから好かれていたことになります。
 そんな森山先生ですが、僕が森山先生の言葉で今でも鮮明に覚えている場面があります。そのとき先生は黒板の前に立ち先生用の机の両端を両手で掴んでいました。どうしてそのときの場面が僕の記憶に刻み込まれたのか、自分でもわかりません。ですが、そのときの森山先生が頭に焼き付いています。先生は、教師が生徒に教え込むとか訴えるという話し方ではなく、まるで独り言をつぶやくように話していました
「日本は、ソ連じゃなくてアメリカに占領されて本当によかったよなぁ…」
 あれから50年が過ぎました。僕は中学でバスケットボールに夢中になり、高校でバレーボールに一年中明け暮れ、大学で4年間青春を謳歌しました。基本的に僕は政治的な難しいことには関心がありませんでしたので同年代の人に比べるとそういった興味や知識は少なかったほうに入ると思います。少しマセテいる人は小学生の高学年くらいから政治の知識を持っていましたし、高校・大学時代はなおさらです。恥ずかしながら、僕は大人になるまで政治や社会にはあまり関心はありませんでした。
 そんな僕ですが、なぜかたまに森山先生の言葉が頭に甦ることがありました。そして、思ったのでした。
「ほんとだよなぁ…」。
 オバマ大統領が原爆の被災地広島を訪問しました。実に画期的なことです。少し考えるだけで想像できますが、米国内では反対する人たちがたくさんいたはずです。米国においては、広島や長崎への原爆投下は「戦争を早く終わらせた」という考え方が一般的ですから、米国民には加害者という意識はほとんどありません。そもそも戦争はお互いが「相手が悪い」という考えの下で始めるものですから、敵を慮る発想があるはずがありません。米国からしますと、真珠湾を突然に攻撃してきた「アジアの悪い奴ら」という認識でも不思議ではありません。
 それはともかく原爆投下について正当性を感じている国民が多くいる中で、オバマ大統領が広島を訪問したことに敬意を表したいと思います。新聞の記事では、これを実現させた功労者としてケリー国務長官とケネディ駐日大使を挙げていましたが、誰かしらの強い尽力がなければ実現しなかったのは間違いないところでしょう。
 広島市民への街頭インタビューで「オバマ大統領が歴史に名を残したい、という功名心からでないなら歓迎」と答えていた人がいましたが、、功名心だけで行動を起こすのも並大抵ではないと思います。つまり、それだけ「すごい!」ことだと僕は思っています。
 G7の各国でもオバマ氏の広島訪問について報道しており評価されていますが、そうした報道を見ていて僕は元共産党書記長のゴルバチョフ氏を思い出しました。ゴルバチョフ氏は西側の人たちからしますと、共産主義から国民を解放したヒーローのように思いますが、ロシアでは評価は低いようです。やはり立場が違うと評価が違うのは当然です。
 オバマ大統領も世界的には「核廃絶を訴えている」理想的な政治家として評価を受けていますが、米国内では米国を弱体化させている張本人と映っているのかもしれません。
 しかしそれでも米国はオバマ氏を大統領に選ぶことができる国です。現在でも、人種差別の問題が起きていますが、それでも白人でないオバマ氏が大統領になれるのですから素晴らしい国です。森山先生のいうとおりです。
 僕は大学時代の講義はほとんど覚えていませんが、ひとつだけ記憶に残っている言葉があります。200名くらいが入る大きな教室でしたが、国際関係関連の講義でした。今はどうかわかりませんが、僕が学生時代は大学の教授は試験前に自分が出版した本を紹介というか宣伝するのが普通でした。つまり「試験にはその本の中に書いてあることが出されるよ」というわけです。そうです。試験にかこつけて本の売上げを上げる作戦です。
 その教授がマイクを通じて話した言葉がこれです。
「パワーオブバランス」
 なぜか、頭に刻み込まれました。国際社会は武力のバランスで平和が保たれているという解説でした。まだ西側と東側が対立していた冷戦時代の構造です。僕は思いました。
「なるほど!」
 オバマ大統領は核不拡散を訴えていますが、やはり現実的ではありません。残念ながら国際社会の秩序を維持する警察のような組織が実質的に存在しないのですからパワーオブバランスでしか秩序を維持する術はありません。しかし、大切なことは「目指す」ことです。現状でよいと思ったなら人類に進歩はありませぬ。
 今度もし核を使うことがあったなら地球が破壊される可能性もあります。以前、原発事故を起こしたウクライナ(旧ソ連)のチェルノブイリに関するドキュメンタリー番組を見ました。あれから30年以上が経ちますが今でも放射能の影響が残っているそうです。東日本大震災の福島原発の後処理もまだまだ解決には程遠い状況です。
 原発事故で最も恐いことは自然に影響を与えることです。放射能の恐さは自然を破壊することです。地球が地球であり続けるためには自然を大切にすることです。森や山を守ることです。
 あ、そういえば。担任の名前は森山先生だった…。
 じゃ、また。




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