<最適な選択の重要性>

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 年をとると身体のいろいろなところに変調をきたしてきます。2年前に患った心臓の病気もそうですし、喘息もそうですし、副鼻腔炎もそうです。40代まではほとんど病院に行くことはありませんでしたが、50代半ばを過ぎたあたりから行く回数が増えてきました。
 病院通いが多くなってから病院といいますかお医者さんといいますか、医療界についていろいろと考えさせられることがあります。医療の世界は専門的な領域ですので素人が簡単に口を挟むことはできません。お医者さんの側からしますと素人が聞きかじりの知識をひけらかす様は不愉快でしかないはずです。
 それでも最近はインフォームドコンセントという言葉が浸透してきているように、昔に比べますと素人に対してわかりやすく説明することが重要視されてきています。つまり専門家と素人の間の垣根をできるだけなくそうという努力がなされています。
 2ヶ月ほど前のことですが、左の睫毛の根元の近くに1ミリ弱くらいの皮膚の突起物ができました。正確には「できた」というよりも「目立つようになった」という表現が合っています。しかし、この「目立つ」も微妙なのですが、最初に指摘したのは妻でした。20代の頃から0.1ミリ程度の突起は気がついていましたが、それが少しずつ大きくなってきたようでした。
 誰でも年をとりますとシミが目立つようになったり皮膚がたるんだり余った皮膚が突起したりするものです。しかし、今の時代はアンチエイジングという言葉が流行っています。
 辞書によりますと、
「抗加齢療法、抗老化療法。 年を取ることによって起る老化の原因を抑制することによって、身体の機能的な衰え(老化)を予防したり、改善すること」
だそうですが、CMなどでは「若さをいつまでも保つ」という意味で使われています。
 しかし、外見がいつまでも若いのも考え物です。人間はいつかは必ず死ぬのですから年齢にふさわしい外見になっているのが人間の自然の姿です。ですから外見が年相応に変化するのが当然と僕は思っていますが、その変化が日常生活に支障をきたすのは問題です。
 僕の睫毛の突起物は視界に入るようになってきました。人間とは不思議なもので「指摘をされる」と段々と気になってくるものです。そして、その度合いが強くなってきます。人間は視覚障害の方でないならば生きている限り「ものを見るという行為」を自然に行っています。朝目覚めた瞬間から視界が発生しています。
 その視界に異物が入り込んできますと、やはり気になります。妻に指摘されたことで違和感が一層強くなってきました。そこでお医者さんに診てもらうことにしました。もし簡単に取り除けるなら取ってしまおうと考えたのです。
 そこで、悩んだのが診療科目です。睫毛は目の近くですので眼科なのか。それとも突起物は皮膚ですので皮膚科なのか。とりあえず僕は眼科を受診してみることにしました。
 最近は医療機関だけがテナントとして入居しているビルを見かけることが多くなっています。僕が利用する駅近辺にはそのようなビルが幾つかあります。いつ頃から出来始めたのかはわかりませんが、これはとても便利です。
 眼科の自動ドアが開きますと、広い待合室にたくさんの人が座って順番を待っていました。仕方なく僕も申し込みをしたのですが、そのときに「まぶたの突起物なのですが、眼科でよいのですか?」と尋ねてみました。看護師さんは優しい笑顔で「大丈夫ですよ」と答えてくれました。
 結局、1時間ほど待ったでしょうか。ようやっと僕の順番になりお医者さんに症状を説明しました。女性のお医者さんは僕が顔を乗せている器具の反対側から目の中をのぞきこみ眼球を動かすように促しました。診察を終えたあと女医さんは「それでは手術をすることになりますが、手術をする曜日は決まっていますので今日申し込みをして帰ってください」と話しました。やはり「手術」という言葉には抵抗があります。ほんの小さな突起物を取るために手術というのは大げさなように感じます。僕はもう少し説明をお願いしました。医師は手術時間や抜糸のことなどを説明しました。それを聞いた僕の率直な感想は、「大ごとになりそう」でした。僕は不安のほうが大きくなりました。
 僕は正直に話しました。「ちょっと、大ごとになりそうなので考えさせてください」。
 結局、1時間以上待ってなにもせずに帰ることになります。落胆した気持ちで自転車に乗ろうとしたのですが、せっかく休みの日に駅までやってきてなにもしないのはもったいないような気持ちになってきました。
 眼科の医療機関ビルから10メートルほど離れた同じような医療機関ビルには2~3年前に一度来たことがある皮膚科がありました。そのときは待合室には誰もおらず、すぐに診察をしてもらえました。僕は、その記憶が甦りました。
 僕は皮膚科にも行くことにしました。もちろん、眼科のことは伏せたままでです。
 予想したとおり皮膚科の待合室には誰もいませんでした。申し込みをしますと、すぐに診察室に呼ばれました。男の医師は僕の症状を聞きますと、
「気になりますよね。じゃ、取っちゃいましょうか」。
 驚きました。医師は簡単にいうのです。そして、液体窒素療法について説明をしてくれました。治療法は簡単でした。液体窒素を綿棒を大きくしたようなものにつけそれを突起物に押しつけるだけです。わずか1分くらいでしょうか。しかし、複数回にわけて実施しなければいけないそうでした。
 結局、僕は皮膚科に3回通い治療は終わりました。治療代も全部で3千円くらいで済みました。もちろん突起物はなくなり視界をさえぎるものは見えません。こうやってまぶた突起物取り除き計画」は無事に終えることができましたが、たまに思い返すことがあります。
「あのとき眼科で手術をしなくてよかったぁ」
 今回、僕はたまたま金額的にも時間的にも少ない負担で済みましたが、これが「たまたま」は決してよいことではありません。僕が思うのは眼科の医師は「皮膚科の選択」を考えなかったのか、ということです。
「皮膚科では簡単に取り除くことができますよ」と教えることができなかったことが問題だと思っています。それが現実的に不可能であるなら、患者の側が最良の選択をできるようなシステムを作るべきです。今、医療費の高騰が問題になっていますが、そうした工夫をすることによって医療費を減らすことは可能です。
 じゃ、また。




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