<臭覚障害>

pressココロ上




 僕はここ1年あまり「臭いを感じることができない」病気でした。正式には臭覚障害というそうですが、最初にこの症状が出たのは今から4年くらい前です。ちょうどこの時期は喘息が起きたり心臓に異常が見つかるなどいろいろな病気の症状が出た頃です。ちょうどその頃に臭覚障害も発症しました。
 当時このコラムでも書いていますが、臭覚障害の根本的原因は副鼻腔炎です。昔の呼び方でいいますと蓄膿症です。副鼻腔炎により鼻の中に大きなポリープができ、そのポリープが空気の通り道を塞いだことが原因です。臭いを感じるセンサーは鼻のずっと奥の上辺にあるそうです。外から示しますと、目と目の間の少し下あたりですが、そこのセンサーをポリープが「塞いだ」か「隠した」ことが理由のようでした。
 鼻関連の病気で最も辛いのは「鼻づまり」です。なにが辛いかといいますと、鼻呼吸ができないことです。世の中にはいろいろな人がいますから、自分が呼吸をしているのが「鼻から」なのか「口から」なのかを意識することさえしていない人がいても不思議ではありません。しかし、人間は鼻呼吸が基本のはずです。なにしろ鼻毛は気体状の異物が体内に入り込むのを防ぐためにあるくらいですから、鼻で呼吸をするのが人間の本来の呼吸法であるはずです。
 僕に関していいますと、僕は鼻で呼吸ができないとイライラしてものごとに集中できなくなります。これがとても辛いのです。また鼻で呼吸ができませんと、気持ち的ににスッキリしないのです。息を吸いそして吐いてもそれが鼻からではなく口からでは呼吸をした気分にならないのです。これほど辛く苦しいことはありません。
 僕は喘息持ちでもありますが、喘息は夜中に発症することが多い病気です。実は喘息と副鼻腔炎は無関係ではなく、喘息持ちの人の大半は副鼻腔炎も発症しているといわれています。まさしく僕はその状態だったわけですが、夜中に喘息が発症しますと、呼吸ができなくなりそうな錯覚に襲われることもあります。
 このときに体験したのですが、人間は呼吸ができなくなりそうになると、どうしてもできるだけ息を「吸おう、吸おう」とします。息ができないのですからそうなるのは当然といえば当然です。しかし、実は息ができなくて苦しいのは、「吸えない」からではなく「吐けない」からです。ですから、呼吸で苦しい時は「吸う」ことに注力するのはなくできるだけゆっくりと「吐く」ようにすることが大切です。僕は喘息を治めるためにこのことを学びました。
 僕の鼻呼吸を困難にしていたのはポリープですが、家の近くの耳鼻咽喉科から紹介された大学病院では副鼻腔炎の手術を勧められました。大学病院の先生の説明では2週間の入院で治療費は30万円といわれまた。やはりこれほど大掛かりに手術となりますと二の足を踏みます。僕はどうしても踏ん切りがつかずいろいろと理由をつけて手術を避けていました。
 ポリープはいつも大きくなっているわけではありません。薬の服用や点鼻薬で小さくなることもあります。ポリープが小さくなっているときは鼻で息をすることができますので苦しさを感じることはありません。ですから、調子のいいときを見計らって大学病院での治療は一応終了という形にしてもらいました。
 しかし、臭覚障害は残ったままでしたし、風邪やアレルギーなどなにかのきっかけでポリープが大きくなることもありました。そうしたときにある薬剤師さんから自宅から少しばかり離れてはいましたが、評判のよい耳鼻咽喉科を教えてもらいました。早速その診療所に行きますと、処方された薬が僕に合っていたらしくポリープも小さくなり、なんと臭いまでもが復活したのです。あのときほどうれしかったことはありませんでした。
 このときは鼻の空気の通りも快調でしたし、臭いも復活していましたので快適な生活を送っていました。しかし、悲しいことに3か月ほどしますと、また臭いを感じなくなり、しかもポリープが大きくなったようでもありました。
 それから僕は先ほどの診療所に定期的に通うようになるのですが、実は症状は一進一退でした。ポリープは大きくなったり小さくなったりを繰り返していたのですが、先生の雰囲気から「もうこれ以上は無理…」のようなものを感じました。そこでほかになにかいい方法はないものかとネットで調べていたときに見つけたのがポリープだけを取り除く手術の存在でした。この手術のメリットは、副鼻腔炎の手術とは異なり日帰りで手術をできることでした。「日帰り」という表現も大げさで、手術時間は片方で10分ほどです。費用も数千円で済みました。このときの顛末を以前書いていますので詳しくはそれをお読みください。
 さて、ポリープ除去手術も無事に済み、鼻呼吸はとても快調にできるようになりました。しかし、悲しいことに臭いは復活しなかったのです。実は、その時点の僕の気持ちとしては鼻呼吸さえ治るなら「臭覚くらい感じなくても問題ない」というものでした。それほど鼻呼吸を渇望していたのです。ですから、ポリープ除去手術をしたのが昨年の初めの頃ですから1年以上臭覚障害の状態が続いていました。鼻呼吸ができるだけで幸せと感じていたからです。
 それにしても不思議です。人間というのは元来が贅沢にできているのでしょう。僕は鼻呼吸が当たり前になってきますと、「臭いも感じるようになりたい」と強く思うようになりました。つまり臭覚障害を治したいと本気で考えるようになったのでした。
 臭覚障害にはその原因が3つあるといわれています。
1つめが僕のようにセンサーが隠されている状態です。センサーが隠されていますので臭いがセンサーまで届かないことが原因です。
2つめがセンサー自身に問題が起きている状態です。センサーがセンサーとしての機能を果たしていないことになりますからセンサーが故障していることになります。
3つめがセンサーから脳へ伝達する神経が異常をきたしている状態です。または受け取る側の脳に問題があるケースもあります。
 以前、先生から臭覚障害を放置しておくと「治りにくくなる」と忠告を受けたことがあります。前回、僕は点鼻薬で臭覚障害を治しましたが、あまりに長期に渡って治療をしていませんと、センサーに異常が発生することもあるそうです。僕はそのことが気になっていました。臭覚障害になって1年以上が過ぎているからです。
 不安な気持ちを抱えつつ、日帰り手術をした病院に行きますと先生は臭覚障害になった時期を尋ねてきました。そして、僕の返答を聞いておっしゃいました。
「1年以上も経つとどうかなぁ…」
 今回の治療法も前回一時期臭いが復活したときのものと同じ点鼻薬を使うものでした。名前をリンデロンといいます。この薬はとても効果があるものなのですが、使い方を正確にしませんと効果が現れないそうです。溶液を正確にセンサーまで届かせることが大切です。そのためには、頭をできるだけうしろに倒して溶液が鼻の奥の上辺にまで届くような姿勢にすることです。そして、あとひとつ重要なことは2分以上その態勢を保つことでした。
 結論をいいますと、現在僕は臭いが復活しています。5日めくらいでしょうか。いつも行くスーパーに入った瞬間にコーヒーの臭いがしたのでした。このスーパーは店内入口のところで煎れたてのコーヒーを売っているのですが、そのコーヒーの臭いを感じることができたのでした。
 臭いを感じるって「すごい!」ことです。これで少しは「おやじ臭さ」を自重できるかもしれません。
 じゃ、また。




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする