<火災保険とリフォーム工事>

pressココロ上




 先日、平日の昼間に在宅していますと、インタフォンがなりました。宅配便かと思い大きな返事をしながら扉を開けますと、30才過ぎの若い作業服姿の男性が立っていました。後ろに目をやりますと、少し離れたところに似たような年恰好の男性が笑顔を向けていました。
 扉の前にいた男性は、僕の顔を見ますと作り笑顔で話しかけてきました。胸元には首から下げた身分証明書のようなものがぶら下がっていました。
「この近所でリフォーム工事を行いますので、ご迷惑になることもあるかと思い、ご挨拶に伺いました」
 僕が「あ、はい、わかりました」と答えますと、男性はさらに続けました。
「お父さん、ちょっとたまたまお宅の雨どいを見ましたところ、かなり古くなっていますので無料で点検しますよ。雨どいが詰まると大変ですから点検だけでもしましょうか?」
 僕は突然のことでしたので答えあぐねていますと、男性はさらにさらに続けました。
「こういった工事って、火災保険でリフォームできるんですけどご存知ですか? 火災保険を使いますと無料で工事ができるんですけど…」
 この段階で僕はようやっと「近所の工事についての挨拶」が嘘であることがわかりました。僕はふたりの男性の顔を交互に見ながら「どちらのお宅の工事ですか?」と尋ねました。すると、指している場所が具体的にはわからないような方向をに指先を向けて(架空と思える)名前を告げました。この曖昧な振る舞いを見て、僕は嘘を確信しました。
 男性はこのあともいろいろとセールストークを展開してきそうでしたので、僕は「いえ、結構です」と打ち切りました。男性たちはバツの悪そうな表情で立ち去りました。
 そういえば、ネットでも似たような内容の広告を見たことがあります。それを思い出し試しに検索してみますと、やはりトラブルがあるようです。新手の詐欺商法のひとつでもあるようで、消費者センターでは注意を喚起する文章が記載されていました。
 しかし、ネット検索をしていて少し気になることもありました。それは損害保険会社の各社のHPではトラブルに注意を促す告知がなかったことです。HPを丁寧に隈なく確認したわけではありませんので、もしかしたらどこかには告知されていたのかもしれませんが、一般の人に目立つように掲載していないのであれば「告知されていない」のと同じです。火災保険に関係する重大な問題ですので目立つように掲載しなければ意味がありません。
 保険会社各社のHPでは注意を喚起する告知を見かけませんでしたが、損保保険協会のHPにはすぐにわかるように掲載されていました。この違いは偶然ではないように思います。
 僕の受けた印象では、各保険会社は意図的に「火災保険によるリフォーム工事」に関するトラブルの紹介を避けているように感じました。もしかするとこうした事例を紹介することは、営業的にマイナスの影響があると判断しているのかもしれません。
「なぁ~んだ。なんだかんだ言って保険って使えないじゃん」
というイメージが広まっては保険会社にとってはマイナスです。
 しかし、保険会社にとって不利な情報であっても一般の人に有意義であるなら保険会社は世の中に呼びかける義務があります。実際には保険金が支払われない事例にも関わらず、あたかも支払われるかのように説明され、業者と契約を結んでしまっては消費者が大きな損失を被ることになります。
 消費者生活センターのサイトには、業者に説明されるままに工事契約を結び、「結局、保険が下りず」高額な出費が発生したり、途中で解約を申し出ても違約金などを請求された事例が紹介されていました。こうした被害に遭わないように、保険会社は契約者の立場に立って適切な告知をする義務があります。
 このようなトラブルが発生する根本には火災保険が火災以外の原因でも保険金が支払われることがあります。ですから、リフォーム会社の説明もあながちすべてが詐欺だと決めつけることもできません。保険会社がこうしたトラブルを積極的に紹介できない理由もそこにありそうです。
 実際に火災保険のパンフレットには、火災以外の原因でも保険金が支払わるとしっかりと書いてあります。例えば、ほとんどの保険会社で「台風」「突風」「竜巻」「落雷」「水害」などが原因で損害が発生したときでも補償される説明がなされています。
 しかし、だからと言って保険金は無節操に支払われるわけではありません。常識のある人ならすぐに理解できると思いますが、なんでもかんでも保険金を支払っていては保険という制度が成り立たなくなってしまいます。
 保険金が支払われない例として最も有名なのは「経年劣化」です。これは当然です。どんな建物でも時が経てば古くなります。そうしたことにまで保険で賄われるはずがありません。そして次に大切なことは「補償されるのは実際の価値」が基準ということです。これは「経年劣化」とつながっていますが、「新築」と「30年築」の物件では、同じ「雨どい」でも価値が違って当然です。
 もう少し具体的に説明します。仮に「雨どい」が新築の段階で10万円の価値だったとすると、「30年築」の建物の「雨どい」は2万円になっているとします。このときに台風の被害で「雨どい」を交換することになったときは10万円を補償するのではなく、被害を受けたときの状態である2万円の補償しかしません。つまり、保険だけでは交換する費用をすべては賄いきれないことを意味します。
 因みに、中古の建物でも新築の価値として保険を契約することもオプションをつけることで可能です。
 ネットで検索をしますと、火災保険を利用して「0円でリフォーム」ができるような表現をしているサイトもありますし、それを逆手にとって「悪徳業者に注意をしましょう」というさらに手の込んだ悪質なサイトもありました。
 僕が先に説明したことも「昔取った杵柄」の知識ですので、今でも通用するかは定かではありません。火災保険でリフォームを考えている人は工事契約をする前に保険会社に確認することが大切です。
 ところで…。
 東京オリンピックのボート会場が侃々諤々の議論の末、元の鞘に納まりそうです。このことに対して小池知事を非難するかのような記事がありますが、この批判は当てはまらないように思います。
 理由は、単に元の鞘に収まるのではなく費用がかなり抑えられたからです。そもそも論になりますが、小池氏が知事にならなければ、無駄な経費になんの疑問を持つこともなく都民の税金をつぎ込むはめになっていたはずです。
 豊洲市場問題にしましても同様です。もし小池知事でなかったなら環境的にも費用的にも大きな問題を抱えながら豊洲に移転していたことになります。そこで働く人たちにも健康被害が生じていたかもしれません。もちろんそこで売られる食品を食べる都民の健康被害も同様です。
 それを思うとき、小池氏の前の知事や都職員の行ってきたことはリフォーム詐欺より重い罪があります。小池氏の政治手腕はもっと認められて然るべきです。
 じゃ、また。
 




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