<同窓生>

pressココロ上




 都議会選が実質的に始まりましたので各政党の動きが活発化してきています。選挙カーを見かけることも多くなりましたし、街頭演説をしている政党もあります。そんな中、僕に直接働きかけてくる人もいます。
 僕は基本的に不偏不党をポリシーにしていますのでどこかの政党を支持することはありません。ですが、一生懸命に政治活動に取り組んでいる人は応援したくなる気持ちがあります。そうした姿勢はどういうところで見るかといいますと、やはり日々の活動です。ポスターに書いてあることは信用できないのが普通です。いくらでも「格好いい文言」を並べることができます。文言は信用できませんので、実際の行動で判断するしか方法はありません。
 今から10年以上前のことですが、選挙に関係のない時期に駅前でほぼ毎日マイクを片手に演説をしていた若い政治家がいました。多くの人に訴えるには通勤時間が最適ですので朝7時前から駅前に立っていました。本当に感心するほど毎日続けていました。その方の前を通り過ぎるのは数十秒のことですので、正直なところ演説の内容はあまりわかりませんでした。ですから、主張していることはわかりませんでしたが、政治家として信頼に足る人であることは想像できました。
 そうした政治家に対して、選挙が始まるときだけ駅前で演説をする候補者がいます。僕が見たのは先の若い政治家を利用して演説をしていたズルい政治家です。おそらく政治家の世界でも縄張りというのがあり、街頭演説をする場所取りというのには「暗黙のルール」があるように思います。日ごろから演説をしている人がその場所の縄張りになるのではないでしょうか。たぶん、この「暗黙のルール」は政治に関わる人たちの間で了承されているはずです。
 そうなりますと、日ごろ駅前で街頭演説をしていない候補者は駅前で演説をする場所を確保できないことになります。しかし、それは日ごろから地道にコツコツと真面目に政治活動をしていないのですから自業自得というものです。
 僕が見たズルい政治家は毎日演説をしていた若い政治家の隣に立ち、若い政治家に続いて演説をしていました。つまり、例えて言いますと、花見をする際に会社の先輩が後輩に場所取りをさせてあとからゆっくりきて楽しむようなものです。自分だけ「楽して楽しもう」という発想です。このような発想の政治家が国民や住民全体のことを考えた政治をするはずがありません。
 先週の日曜日ですが、パソコンに向かって作業をしていたときのことです。インタフォンが鳴りましたので、僕は「宅配の人」と思い、大きな声で「はぁ~い」と言いながら玄関に向かいました。しかし、玄関のガラスから外を見ますと、宅配の人ではなく僕と同じくらいの年齢の女性が二人立っていました。
 このような光景を見ますと、すぐに思いつくのは宗教の勧誘です。我が家の近辺には定期的にいろいろな宗教の勧誘が来ます。
 話は少し逸れますが、僕はお店を構えた商売を3回ほど経験しています。開業するということは廃業も3回経験していることになりますが、廃業するときに遭遇するのが、実は宗教の勧誘なのです。人間というのは、不遇のときは心が弱くなりますし、心に隙ができやすい精神状態になっています。新興宗教の人たちはそのような精神状態につけこんで心を奪い取ろうとするところがあります。僕は新興宗教のそのようなやり方に憤りを感じています。もし、本当に自分の宗教を信じ自信があるのなら、そのような正常な精神状態でないときを狙うのではなく、正常な判断ができる普通の精神状態のときに真正面から堂々と勧誘するのが正しい勧誘の方法だと思っています。
 それはともかく、勧誘の人らしき人の姿をみて、いつものように「丁寧に断る」つもりでいました。これも僕のポリシーなのですが、「断る」のにも礼儀があります。僕はいつもドアを開けて「すみませんが、結構です」と言葉をかけるようにしています。
 さて、ドアのノブを掴み右に回して3分の1くらい開けましたところ、意外な言葉が聞こえてきました。
「〇〇高校の△△期の卒業生です」
 「〇〇」は僕の卒業した高校名で、△△は僕が在籍していたときの年次です。つまり、この女性たち二人は僕の同窓生ということになります。僕は、思わずドアを全開し、
「おお、これは珍しい~!」
 と、笑顔で迎えました。しかし、高校を卒業して40年以上過ぎていますので二人の顔に見覚えはありません。僕は続けました。
「何組の何さんですか?」
 二人はそれぞれ笑顔で答えたのですが、やはりそれでも思い出せません。また、僕は続けました。
「僕は何組だったのかぁ?」
 僕の質問に、右側に立っていた女性が鞄の中から名簿らしきものを取り出し、しばらく見てから
「maruyama君は、3年6組でしたね」
 自分では何組だったか記憶が定かではありませんでしたので、心の中で「へぇ~」と思いながら質問を続けました。
 それにしても他人から「~君」と呼ばれるのは久しぶりです。とても懐かしく新鮮に感じられ、うれしい気持ちになっていました。
「お二人はなんのクラブ活動だったのですか?」
 高校時代で僕が一番記憶に残っているのはやはりクラブ活動です。僕が入っていたバレーボール部は高校の中でも一番厳しいと評判だったこともあり、僕が最も充実感を感じていた時間だったからです。
 左側に立っていた女性が答えました。
「私は1年のときだけ吹奏楽部で、彼女は2年までバスケ部にいたんですよ」
 それでもピン!とこない僕はさらに尋ねました。
「じゃぁ、僕は何部だ!?」
 二人は顔を見合わせ数秒考えていましたが、わからないようでしたので自分で言いました。
「バレー部だったんですけど…」
 僕の答えに二人は
「ああ、そうだ、思い出した思い出したぁ」
 …なんて、想い出話をしながらいろいろと世間話をしました。僕は、いろいろな人のお話を聞くのが好きですので、高校を卒業したあとの進路や就職の話、またそれぞれの旦那さんとの出会いなど楽しい会話を楽しみました。
 やはり、「60年も生きていますと誰にでも浮き沈みにがあり、いろいろな経験をしているんだなぁ」というのが僕の感想です。
 ところで、お二人がなにをしに来たのかといいますと、選挙でした。ある政党の候補者のお願いに来たのですが、お二人は僕の家からはかなり遠くに住んでいる方です。それにも関わらず選挙活動をしているのですから、組織の強さがわかるというものです。読者の皆さんは、もうどこの政党かおわかりですね。そうです。後ろで大きな組織が支えているあの政党です。
 ですが、僕の率直な感想としては、このような選挙活動と言いますか、応援はマイナスにしか作用しないように思います。まず、高校の卒業名簿を活用することは今の時代の「個人情報の扱いを慎重に」という時代の流れに反することですし、そもそも40年以上も前の知り合い(?)にお願いされて一票を入れるとは思えません。組織の上層部の方々は今一度考えなおしたほうがよろしいように思います。
 ところで…。
 お二人とはいわゆる世間話というものを30分近くしたのですが、10分くらいを過ぎた頃に左側の女性が僕の顔をまじまじと見ながらゆっくりとした口調で言いました。
「ああ、段々思い出してきた…」
(その程度の思い出しかないのにやってきたのか)と残念な気持ちになったのですが、次の言葉でうれしい気分になりました。
「maruyama君って、人気者だったよね!」
 じゃ、また。




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