<孤高>

pressココロ上




いよいよ平昌オリンピックが始まりました。おそらくテレビはオリンピック一色になるでしょうが、テレビは感動が「ウリ」のメディアですのでオリンピックは素材としてはまさに打ってつけのイベントです。しかし、あまりに過剰な演出をされてしまいますと僕としては反対に気持ちが冷めてしまいます。適度な演出に抑えてくれることを願っています。
さて、実は僕が先週一番心に残ったできごとはフリーの女性アナウンサーである有賀さつきさんがお亡くなりになったことです。基本的にこのコラムでは芸能ネタは取り上げないのですが、有賀さんの最後の姿にあまりの潔さを感じましたので書くことにしました。
有賀さんの訃報は突然でした。僕の中ではつい先日までテレビのクイズ番組に出ていたような感じがありましたので特に唐突な印象があります。しかし、あとからの情報によりますとかなり以前から闘病生活をしていたそうです。クイズ番組で一緒に出演していた先輩女性アナウンサーのお話では、そのときカツラ(正しくはウィッグ)を着けていたそうでそのことに触れると明るく「とても簡単で便利ですよ~」とまるでおしゃれの一環としてつけているように答え、闘病中であることなど微塵も感じさせない笑顔を見せたそうです。しかし、実際にはそのカツラは闘病のためのものだったのです。
有賀さんは本当に最後の最後まで孤高を貫きました。僕が今回コラムで書こうと思ったのはそこに畏怖の念を覚えたからです。今の時代はSNSなどの発達で自分をさらけ出すことが流行りになっている風潮があります。楽しいことはもちろんですが、ネガティブな状況も発信することで自らの存在をアピールできます。
もちろんそうした風潮を批判する気持ちは毛頭もありません。例えば療養中のようすを発信することで同じ病気の人を勇気づける効果もあります。ですから、社会的にも有意義なことだと思います。しかし、そうした考えとは正反対の生き方があっても然るべきです。有賀さんのお父様がお話ししていましたように「誰にも迷惑をかけずに最後まで生きたい」という気持ちが強かったのでしょう。しかし、口先だけはなく実際に行動で示すのは並大抵の意志の強さではできません。強靭な精神と覚悟を持っていなければできない態度です。
有賀さんはお父さまにも闘病のことはお話になっておらず、自分が亡き後のことをすべて自分で済ませていたそうです。例えば、銀行口座の手続きや相続のことなどあらゆることを自分で行っていました。つまり、自分の最後を悟っていたことになります。そのような状況でも取り乱すことなく冷静にやるべきことをきちんとやっていた姿にこみあげてくるものがあります。自分の最後がわかっていてもたじろぐことなく背筋を伸ばして生きていた姿勢に尊敬の念を覚えずにはいられません。
有賀さんは女性アナウンサーがタレント化するきっかけになった世代だそうです。僕も記憶がありますが、有賀さん、八木亜妃子さん、河野景子さんの3人はフジテレビの看板娘として華やかさ、さらに言うならキャピキャピ感がありました。この3人は同期ですが、以前河野景子さんが有賀さんについて話していたエピソードが印象的でした。
採用試験の面接のときにたまたまトイレで一緒になったそうです。そのとき有賀さんはなんと鼻歌を歌っていたというのです。普通誰でも就職試験の面接では緊張するものです。しかもテレビ局の女性アナウンサーという狭き門ですから緊張の度合いも半端ではないはずです。そのようなときでも有賀さんは全く動じる気配を見せていなかったのですから素晴らしい精神力の持ち主です。
そして、今回その精神力の強さが単なる度胸があるというだけではなく、もっと高邁な精神の裏付けがあったことを証明しているように思います。世の中には度胸のある人というのはいますが、どの度胸が単なる鈍感さということもあります。しかし、有賀さんは鈍感さではなく、いろいろなことを踏まえたうえでの強い精神力でした。死を目前にしても動じていなかったのですからこれ以上度胸のあるさまを証明する状況はありません。最後の最後まで投げやりになることもなく、人としての自分を貫き通した姿に感動せずにはいられません。有賀さんの「動じない強さ」は上っ面のものではなく間違いなく本物でした。
そのような有賀さんでしたが、結婚相手の選び方には過ちがあったようです。離婚会見のときに元夫に対して「家の中でも上司だった」と明言を吐いていますが、実に的を射た表現でした。有賀さんの結婚相手はフジテレビの解説委員の方でしたが、社会人またはビジネスマンとしては有能でも結婚相手としては不似合いな印象を抱いていました。有賀さんのような立場にいますと、いろいろな芸能人やスポーツ選手など一流人との交流もあったはずです。ですから人を見抜く力も培われていたはずですし、またいくらでも結婚相手がいたのではないでしょうか。それだけに結婚相手を知ったときに残念な感想を持った記憶があります。有賀さんほどの聡明さを持ち合わせていても幸せな結婚相手を見つけられないのですからやはり結婚というのは難しいものです。
僕は「あなたはこうやってラーメン店に失敗する」という本を公開していますが、この本は毎日10人以上の方が読んでくださっています。月間ですと300人の方ということになりますが、実は「あなたはこうやって結婚生活に失敗する」という本もいつの間にか毎日数人の方が読んでくださるようになっていました。
僕の「失敗シリーズ」は失敗するケースを知ることで失敗する確率を低くすることが目的です。ですが、「知って」もそれが役に立つかどうかは別です。なぜなら、「読んだ内容」を自分の中に取り込めるかどうかは読んだ人のキャパシティによるからです。結局は読む人次第ということになります。
経験のある人もいるかもしれませんが、同じ本を子供の頃に読んだときと大人になったときに読むのでは感想が違うことがあります。それは読む側の意識や考えや、読解力が成長しているからです。この違いが子供と大人ですとわかりやすいですが、大人と大人では思うほど簡単ではありません。二十歳を超えていますと、人は誰でもそれなりに自分に自信を持つようになります。この自信が邪魔をして素直に本を読み込めないのです。ですから20代に読むのは特に注意が必要です。20代というのは自分ではある程度大人になっている自覚と言いますか自負というものがありますので素直に受け取れない部分があります。
人が成長するには成長に導いてくれる人との出会いがとても重要になります。ですが、その出会いを決めるのは成長する以前の自分です。ここがとても重要で、結局は自分ひとりで考え悩み、苦しんだ末に作り上げた自分に責任があることになります。
スポーツ選手も一流になるには優れたコーチのとの出会いが重要と言われます。オリンピックに出場するほどの選手はすべてと言っていいほど素晴らしいコーチがサポートしています。その一流のコーチに巡り合うためには自分ひとりで考え悩み、苦しむことが必要です。
人は究極的には自分に責任を持って生きることが大切です。最後まで孤高を貫き通した有賀さんとオリンピックで活躍しているスポーツ選手を見ていてそんなことを思いました。
有賀さつきさんのご冥福をお祈りいたします
じゃ、また。




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