<改革の難しさ>

pressココロ上




おそらくほとんどの人は「郵便局の問題点」について考えることはないでしょう。しかし、僕は現役議員である小泉進次郎氏のお父様である純一郎氏が首相になった頃から関心を持つようになりました。小泉元首相は郵政民営化を成し遂げるべく首相になった方ですが、実際にはいろいろな意見や主張があり、賛成の人もいれば大反対の人もたくさんいました。僕は小泉元首相の考えに賛成でしたが、現在小泉元首相時代の郵政民営化を振り返るマスコミの記事はどちらかと言いますと、「失敗」とする論調が多いように感じています。

そもそも今週のコラムで僕が小泉元首相の「郵政改革」を取り上げようと思ったのは、変な話ですが、妻と一緒にサイゼリヤにお昼ご飯を食べに行ったことにあります。サイゼリヤはイタリヤ料理を安く提供することをウリにして成長してきたチェーン店です。現在、ほかのチェーン店では原材料費や光熱費等の高騰、その他諸々の物価高を受け価格を上げています。ですが、なんとサイゼリヤは価格を据え置いています。

それを僕は「偉い! すごい!」と思っているのですが、「価格据え置き」を続けているのは間違いなく創業者の正垣泰彦氏の強い意志にあります。正垣氏はほかの飲食店チェーンの経営者と少しばかり経歴が異なり、元理系という異色の経営者なのですが、「裏付けのある低価格路線」を追求しています。

そんなことを考えていたところ、唐突ですが頭に浮かんできたのは「りそな銀行」の中興の祖とも称されている細谷英二氏でした。細谷氏は2003年当時、公的資金を注入されるほど経営の危機に瀕していた「りそな銀行」に経営者としてやってきた方です。それまでは国鉄民営化後の副社長を務めていた方ですが、民営化の際の修羅場を経験していたことが抜擢された大きな理由ではなかったでしょうか。

当時、経済誌などでは細谷氏の手腕が高く評価されることが多かったですが、素人である僕からしますと「普通の感覚」で「常識的なやり方」を実行していたにすぎないようにも思えました。簡単に言ってしまいますと、お客様が不便と思っていることを一つ一つ修正していくことですが、裏返していうならば、それまでは銀行界の常識が世間一般とはかけ離れていたことになります。発想の転換を職員の方々に徹底させたことが成功の要因のように思います。

普通、どんなことでもそれまでのやり方を変えようとすると必ず反対する人たちが出てきます。それまでのやり方に慣れていた人たちはどうしても反感を抱いてしまうからです。人間は基本的に保守的な生き物ですのでそれまでの考え方・やり方を変更する、または変更させるのは並大抵のことではありません。

しかし、細谷氏にしてみますと、国鉄の民営化に比べたなら「りそな銀行の」改革はそれほど難しいとは感じなかったのかもしれません。なにしろ「りそな銀行」は一度倒産したも同然なのですから、反対派が強く出られなかった環境にあったはずだからです。反対派を別の角度から見ますと、既得権益者です。それまで「権益」を得ていたものがなくなるのですから反対したくなるのも当然です。しかし、一部の既得権益者の「得」はその他の多くの人の「損」です。一部の人だけが「得」をする社会が健全であるはずがありません。

細谷氏のことを考えていましたら、当然ですが、国鉄民営化を実行に移した中曾根康弘元首相のことが浮かんできました。僕は戦後で最も功績を残したのは中曽根元首相と思っているのですが、その理由は「国鉄」「日本電信電話公社」「日本専売公社」を民営化したことにあります。現在では、それぞれ「JR」「NTT」「JT」となっていますが、これらの企業が進化し成長したのは民営化があったからこそです。各企業の「成長・進化」は利用している僕たちからしますと「便利さ」にほかなりません。

その国鉄の民営化を成功に導いた一人が細谷氏ですが、「りそな銀行改革」の半ばで残念ながらご病気でお亡くなりになっています。しかし、その後も「りそな銀行」が成長・発展している様子を見ていますと、細谷氏は人の育て方の面においても優れた経営者であったことがわかります。改革を進めていた企業がそのときに務めてリーダーがいなくなったあとに元の木阿弥になるケースはこれまでにもありました。その意味で言いますと、細谷氏は本当の意味で名経営者の一人といえそうです。

国営を民営化するのは本当に並大抵のことではありません。当時は労働組合の力が今とは比べ物にならないほど強かったのです。例えば、人事も上司よりも組合の幹部のほうが力を持っていました。しかもややこしいことに組合も複数あり、それらの調整もあり一筋縄ではいきませんでした。ちなみに、複数の労働組合のうち一つは経営者側が作った組合です。

そんな複雑な労労関係と労使の関係のパズルを上手に組み合わせながら「民営化」を成し遂げたのですからが、中曽根元首相の手腕は称賛されてしかるべきです。それほど国営企業を民営化するのは大変なのですが、国営である郵便局の民営化を進めたのが小泉元首相でした。当時小泉氏は自民党の中でも傍流にいたのですが、当時党内で権勢を誇っていたのは田中元首相の流れをくむ経世会という派閥でした。

あまり詳しく書きますと文字数が足りなくなりますので端折りますが、郵政民営化が絶対に必要だった一番の理由は郵便貯金や簡易保険などで集めた潤沢な資金の使い道があまりに杜撰だったからです。小泉政権時の財務大臣は「塩爺」(しおじい)の愛称で親しまれていた塩川正十郎氏でしたが、「母屋でおかゆをすすっているときに、離れですき焼きを食べている」とそうした資金の使い方を批判していました。

こうした郵便局を取り巻く構造を改革しようとしたのが小泉首相で、民営化は実現しましたが、小泉首相のあとを継いだ第一次安倍政権も1年で退き、その後の民主党政権で骨抜きにされてしまった感があります。繰り返しになりますが、郵政民営化は「失敗」という論調が現在でも言われていますが、僕は「郵政民営化」が志なかばで終わってしまったことに一番の原因がある、と思っています。

以前、仕事中にたまたま測量士の方とお話する機会があり、「今は測量士という仕事が大変」で「その原因は小泉首相の構造改革にある」というような話をされていました。まさにそれまでの「既得権益者」です。資格によって権益を守られていた人たちは権益がなくなって不満を感じるのはわかりますが、社会全体から見たときの視点のほうが重要のように思います。

僕は「気になるニュース」を毎週更新していますが、先日そこで紹介したのは「郵便局長会の闇」という記事です。この記事は朝日新聞の藤田知也記者が書いたものですが、藤田氏は幾つかの配信サイトで「郵便局の問題点」を指摘しています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/6ea5d02fa1f7de775c15f7934c072c4f38737ad7?page

これらの記事を読みますと、小泉元首相の郵政改革がいかに骨抜きにされてきたかがわかります。現在、ジャニーズの問題が世間を騒がせていますが、そのきっかけは英国のテレビ局BBCがドキュメンタリーで放映したことです。実際はそれまでにも一部のマスコミでは報じられていましたが、当時のジャニーズの権力に逆らえず「有耶無耶」に葬られてきていました。

ですが、「BBCのドキュメンタリー」がきっかけとなり、世間の目が覚めました。郵便局の問題点についても、一部のマスコミが報じても最終的には有耶無耶で終わってしまう、というジャニーズと同じ経過をたどっています。しかし、いつかBBCのドキュメントのようなきっかけで「郵便局の問題点」が多くの方に注目されることを願っています。

じゃ、また。




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