<闇バイトとFCシステム>

pressココロ上




闇バイトのニュースがあとを絶ちませんが、最近の闇バイトは複数人で行われているのが特徴です。以前の闇バイトですと、例えば息子などを装って現金やキャッシュカードをだまし取る犯行では「受け子」という役回りがありました。指示役の人間から言われるがままに犯罪に手を染める手口ですが、基本的に「受け子」は単独犯です。しかし、最近の闇バイトは強盗といった強引な手口が多いですが、単独ではなく複数犯で実行しています。

そして、この闇バイトでは複数犯でありながら、彼らが「知らない者同士」であることが共通しています。闇バイトに応募してきた若者たちが指示された場所に集まり、そこから強盗現場に向かっているようです。つまり、集合場所に集まってきた若者たちはそこに来るまで知り合いでもなんでもないことになります。

これまでの犯罪では、複数人で行う場合は主犯格の人物がいて、その人物の手下のような人間が一緒に行動するといのがパターンでした。チームスポーツではありませんが、どんな場合でも複数人で行動する場合は、信頼関係とまではいかなくても意思疎通ができている人間関係であることは重要な要件です。

ところが、現在報じられている闇バイトの犯罪では、実行犯の若者たちは見ず知らずの他人が集まって強盗事件を起こしています。先日現場で取り押さえられた強盗犯は逃げた人物を「知らない人」と答えていました。この犯罪に限らないのですが、すべての強盗事件と言っても過言ではないほど、犯人たちはお互いを知らないまま強盗を実行しています。

お互いを知らない同士で強盗をすることに不安はないのでしょうか。それが不思議です。さらに不思議なのは指示役のいわれるままに犯罪を実行していることです。そもそも「闇バイト」と「バイト」に「闇」がついているのですから、悪事を働くことを前提とした「バイト」であることは認識しているのでしょうが、なぜわざわざ「指示を受ける」必要があるのでしょうか。

普通に考えて、強盗を実行するなら、盗んだものはすべて自分の取り分にしたほうが絶対に得です。しかし、「闇バイト」の場合は指示役に幾らかか、下手をすると半分以上を搾取されることになるはずです。こんな損なことはありません。自分がリスクを冒し肉体を使って一生懸命働いて得た報酬から、自らは指示をするだけでなにも行動を起こしていない人間に半分以上を持っていかれます。「闇バイト」はこのような構造になっているのですが、実行犯の若者たちはそのことになんの疑問も抱かないのでしょうか。「闇バイト」というくらいですから、この強盗を「仕事」とするなら、これほど不公平な「労使関係」はありません。

「闇バイト」という言葉から思い出すのは、今から50年くらい前でしょうか、豊田商事事件という社会を揺るがせた大事件です。言葉巧みにお年寄りに近づき、老人たちから大金をだまし取る商法だったのですが、この会社そのものが犯罪会社でした。つまりは、そのような会社に指示されるがままに仕事をこなしていた社員たちは、今の時代の「闇バイト」の実行犯と同じことをしていたことになります。

しかし、普通の会社であろうとも一つ間違えると、「闇バイト」ならぬ「闇ビジネス」になる可能性はあります。そして、会社・組織というのは「指示をする人」と「指示を実行する人」に分かれています。全員が「指示をする人」、もしくは反対に全員が「指示を実行する人」では会社・組織は回らなくなります。そうしたとき「指示をする人」は常に自らを律する精神を持っている必要があります。

僕はフランチャイズ(以下FC)システムに批判的な考えを持っている人間ですが、「闇バイト」の構造を考えたとき、FCシステムを思いました。本部が「指示する人」で加盟店が「実行する人」だからです。FC本部が本当に利益を出せる経営手法を持っているなら、加盟店などではなく直営店で店舗を拡大するはずです。それを加盟店に店舗運営を任せるのは直営店で経営するよりもリスクが少なく利益を出しやすいからです。

もう大手マスコミではほとんど報じなくなりましたが、大阪でセブンイレブンの加盟店と本部が裁判で争っていました。大まかに説明しますと、「奥様がお亡くなりになったあと、勝手にお店を休んだこと」が対立の要因になったのですが、結論を言いますと裁判では加盟店側が敗訴しています。ですが、これは「加盟店にとって不利な契約条件」が前提にあっての裁判ですので敗訴も当然のように思います。

先日、高級食パンチェーン「乃が美」の群馬県内の店舗が「一斉に閉店した」ニュースが報じられていました。このチェーンもFCシステムだったのですが、本部と加盟店の間におけるロイヤリティが対立の要因でした。僕からしますとFCシステムが「闇バイト」と同じ構造になっていることが一番の要因のように思っています。

FCシステムは本部が店舗運営のやり方を指示し、加盟店が実行に移すのですが、大体において本部のやり方を拒否できない契約になっています。「乃が美」のケースでも加盟店がロイヤリティの値下げを求めたのに対して本部が拒否したことが対立の起因です。おそらくそもそもの契約で「拒否できない」内容になっているはずですので、仮に裁判になったとしてもセブンイレブン裁判同様、加盟店側が負けることになると予想します。

本部と加盟店の関係に似ているものとして「下請け」とか「業務委託」という契約もあります。まさに僕は今そうした立場で働いているのですが、FCほど立場が不利、損になる契約ではありません。さらに現在では、独占禁止法で下請けを守る風潮が強くなっていますのでFCの加盟店ほど不利な条件にはなっていません。

「下請け」や「業務委託」では、条件が合わなければ仕事を受けないことも可能ですが、FCシステムではそうはいきません。加盟店側から「簡単に契約を解除できない」契約になっているからですが、ときには解約の際に違約金としてかなりの大金を支払う必要が生じることもあります。これほど偏った契約はありません。

コラムの中ごろで「『指示をする人』は常に自らを律する精神を持っている必要があります」と書きましたが、「指示をする側の人間」は自分たちが強い立場でいることを常に頭に置いておく必要があります。実は、コンビニ本郡でもこれまでに「加盟店をもっとサポートしなければいけない」と考える社長が就任したことがあります。本部の側があまりに強い立場でいることに違和感を持った経営者でした。

ですが、そうした社長も志半ばで退任に追い込まれています。最近でのコンビニの本部の横暴さを物語るニュースとしては、本部の地域担当者が勝手に加盟店の発注していたという事件がありました。「発注する」ということは仕入れの支払いが伴うことですので立派な窃盗です。こうした事件が起きるのも「指示する人」が自らを律する精神を放棄していたからです。

コンビニの加盟店は「闇バイト」とは違い、社会に必要で貢献する仕事です。そうであるだけに「指示する人」は「実行に移す人」たちのことをきちんとサポートすることを考える義務があります。「実行に移す人」たちがリスクを負い肉体を酷使しているのは「闇バイト」と同じなのですから。

じゃ、また。




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