<考えない人々>

pressココロ上




僕は晩ご飯のあとは一人寝室に行きネットニュースを見ることを日課にしています。日課と書きますと、「課」のイメージから義務的な感がありますが、そうではなく「やらずにはいられない」という気持ちです。ネットニュースを見ないでいることのほうが辛いというと大げさですが、落ち着かない気持ちになります。

ですが、月曜日だけはNHKの「家族に乾杯」とか「ファミリーストーリー」などを見ています。基本的に我が家のテレビの主導権は妻が持っているのですが、妻が好む番組はほとんどが僕の好みではありません。よく年齢を重ねるとテレビで見る番組は「ニュースだけになる」と言われますが、僕もその傾向が強くなっています。

そんな僕とは対照的に妻はバラエティ番組とかクイズ番組、ドラマ番組が好きです。このように好みが違う二人ですが、唯一夫婦の好みが同じなのが先ほどのNHKの番組です。ですので、月曜日は妻と仲良く約1時間テレビを見ています。実は土曜日の「ぶらタモリ」も一緒に見ているのですが、この番組は8時15分で終わりますので、僕のニュースチェックの時間に与える影響は少なくて済みます。

数週間前、そのニュースチェックをしているときに興味深い記事を目にしました。現在ウクライナを侵攻しているロシアの年末年始のようすをレポートしている記事です。レポートをしているのは金平茂紀さんというTBSテレビのベテラン記者なのですが、昨年まで報道特集という番組のキャスターを務めていたそうです。

僕が金平さんを知っているのはかつて筑紫哲也さんの「ニュース23」という番組に出演していたからですが、当時JNNモスクワ支局長としてロシアのようす伝えていました。そうした経歴の金平さんのモスクワレポートでしたので読んでみる気になりました。

これまでにもウクライナに侵攻しているロシアの一般の人についてのようすはいろいろな報道の記事などで読んでいました。それらの記事を読んて僕が思ったのは、中高年以上の人はプーチン大統領を支持していて、戦争についてもある程度許容している、といったことです。ときたま戦争反対のデモをしている若い人たちが警察によって連行される映像も映し出されていましたが、これらのニュースの出所は西側のメディアですので、公平性の点において今一つ確信が持てないでいました。

以前少し書きましたが。YouTubeでモスクワでの街頭インタビューをしている映像を見たことがあります。戦争について「どう思うか?」とか「動員されたら参加するか?」といった質問でしたが、プーチン大統領を支持する人と反対する人の割合は「7対3」くらいだったように思います。つまり支持する人のほうが多かったのですが、この街頭インタビューはいわゆるジャーナリストというか公的で正式な機関が行ったものではなく、一般の人が行っていたものでしたので、やはり今一つ信頼性とい点において欠けている感じを持っていました。

そうした状況のときに金平さんの記事に出会ったのですが、それを読んでの一番の感想は「ロシアの人たちは、ウクライナ侵攻に関してあまり真剣に考えていない」ということです。これまでも「ロシアでは情報が統制されていて、国民にはウクライナ侵攻について本当のことが伝えられていない」と見聞きしてきましたが、それを裏付けるかのような金平さんのレポートでした。そこには、モスクワの人々が「ウクライナ侵攻で戦っている兵士のことよりも普通の日常生活を楽しんでいるようす」が伝えられていました。

そして先週は、「NHK国際ニュースナビ」というニュースサイトで「ロシア社会は“プーチンの戦争”を止められない」という記事を読みました。この記事には、まさに金平さんのレポートを解説するような内容が書かれていました。これを読んで僕が最も印象に残ったのは「ロシアでは、『戦争』という言葉は使わず『軍事作戦』という言葉を使っている」ことでした。

金平さんのレポートでは一般の人たちが年末年始を楽しそうに過ごしているようすを伝えていましたが、それを可能にしているのは『軍事作戦』」という言葉のようです。『戦争』ではなくあえて「軍事作戦」と表現しているところに意味があり、そうすることで一般国民の人たちは、特に中高年以上の人たちはウクライナ侵攻の深刻さ、残酷さを感じていないように思いました。

これこそ「情報統制」の恐ろしさであり、また同時に「国民が自ら考えないこと」の悲惨さです。上から与えられる情報を鵜呑みにしたり、従ったりしていることはとても楽ですが、それは国家が敷いては国民が破滅に向かうことになります。

最近、日本では強盗殺人事件が数多く報じられていますが、これらの事件は「ネット経由」で行われていることが特徴です。「ネット経由」とはネットで犯罪を実行する人を募集し指示を出していることですが、こうした犯罪を「闇バイト」というようです。

僕が不思議に思うのは、そうした「闇バイト」に応募し、指示されるままに犯罪を行う人がいることです。ニュース番組では犯罪の大元締めと言われている「ルフィ」という人物の特定に力を注いでいますが、少しばかりバラエティ化しているようにも思え、複雑な気分でもいます。

「ルフィ」の特定には時間がかかりそうですが、実行犯は続々と逮捕されています。僕からしますとあまりに簡単に捕まっていうように見えますが、そのことこそが実行犯が「闇バイト」に応募した犯罪の素人であることの証明です。繰り返しになりますが、大元締めがスマホで指示を出すだけですのでリスクをあまり負っていないのに対して、実行犯の負うリスクはとても高くなっています。

普通に考えるならどう考えても割に合わないバイトですが、実行犯の人たちはそのようには考えなかったのでしょうか。中には「個人情報を上の人に知られ、家族に危害がくわえられることを恐れて抜けようにも抜けられなくなった」と話している人もいます。このようにして末端の犯罪者をからめとる手法は悪徳集団でよく聞く話ですが、もっと早く警察に相談していたなら罪を犯さなくても済んだかもしれません。

僕はこの事件を見ていて、ロシアの人たちを思い起こしました。実行犯の若者たちが上から言われることになんの疑問も持たずに受け入れている姿と重なったからです。そもそも「闇バイト」に応募することは論外ですが、仕事の内容に対して少しでも考えることをしていたならすぐに闇バイトの採用を辞退したはずです。それをせずにそのまま指示に従うのは、自らはなにも考えていないことを示しています。

「考えない」ことは罪です。「ルフィ」の指示にただ従い実行する犯人も、ロシアで政府の情報しか伝えないニュースを無条件に受け入れている国民も、なにも考えないという点において同じ罪を背負っています。

人道援助の活動家としてノーベル賞を受賞したマザー・テレサ氏は「愛の反対は憎しみではなく無関心です」という名言を残していますが、「考えない」ことは「無関心」でいることと同じです。日本では長い間選挙の投票率が低迷していますが、まさしく投票しないことは政治に、社会に「無関心」でいることです。

政治の世界では財政赤字がなんの歯止めもないまま膨らみ、防衛力の増強なども叫ばれています。国民ひとりひとりが社会に関心を持っていなければいけません。

…本日のコラムは、堅い。

じゃ、また。




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