<持ちつ持たれつ>

pressココロ上




安倍元首相の銃撃事件以降、政治家と旧統一教会の関係について関心が高まっていますが、先週書きましたように、両者が関係を持つ要因には「組織票」の存在があります。どのような組織や団体であろうとも一定数のまとまった票は選挙の際に間違いなく効力を発揮します。それを頼りにしたくなる政治家の気持ちもわからないではありません。

組織・団体の側からしますと規模を拡大する際に政治家の後ろ盾があることは、こちらも間違いなく大きな力となります。政治家という、実質はさておき、社会的ステータスが高い人に認知され勧めてもらうことは、社会的信用が高まることにつながるからです。まさに両者は「持ちつ持たれつの関係」です。

政治家と同じくらいに効力があるのが芸能人や一流アスリートなど著名人です。フィギュアスケートの羽生結弦選手がCMに出演する企業は、羽生選手が勧めていることでその企業価値が高まります。同じくフィギュアスケートの浅田真央選手もマットレスのCMに出演していますが、浅田選手が勧めることで商品価値が高まっています。野球の大谷選手も然りです。俗に、広告などに出演している著名人を「広告塔」と呼ぶことがありますが、政治家が宗教団体を称賛するスピーチをすることも「広告塔」の役割を担っていることになります。

「持ちつ持たれつの関係」とは両者に上下関係がないことで、そのこと自体は公平で平等で理想的な関係といえます。ところが、この理想的な関係にもリスクが存在します。それは一方に問題が起きたときに「道連れ」になることです。

旧統一教会に対する恨みの代わりに安倍元首相が銃撃されたのをみてもわかるように、第三者の中には両者を同一視する人もいます。もし、旧統一教会が立派で清廉潔白な宗教団体であったなら、安倍元首相が銃撃されることもなかったでしょう。このように「持ちつ持たれつの関係」にある両者は仮に一方に問題が発生したときに批判をともに受けることになります。

芸能人が不倫や麻薬など不祥事を起こしますと、週刊誌などで必ず報じられるのが「損害賠償」です。あるイケメン俳優は不倫・離婚でイメージを落とし、CMの打ち切りや出演作品のお蔵入りで「数億円の損害賠償額」などと報じられていました。CMに出演するということはその企業の広告塔になっていることですから、芸能人の不祥事はそのまま企業の不祥事としてイメージが定着する可能性があります。

このように「持ちつ持たれつの関係」には両者にリスクがあるのですが、そのリスクをどれだけ認識しているかは疑問です。例えば、安倍元首相は旧統一教会の推薦スピーチをすることで、まさか自分の命が狙われるなどとは夢にも思っていなかったでしょう。企業の広告塔になっている著名人も同様です。

僕が最近テレビのCMを見ていて気になるのは、ビールと保険です。両者に共通しているのは「商品のイメージがCM(広告)に左右される」ことです。前にも書いたことがありますが、ビールという商品は「味」が「決めて」になりますが、「味」ほど曖昧で確たる要素がない商品はありません。究極的には「好き、嫌い」という個人的好みに収れんされます。

そのような特質のある製品でライバルと差をつけるにはイメージで訴えるしか方法はありません。ですので、ビール会社は売れっ子の芸能人を多数使い「うまい!」を連発させます。僕はダウンタウンの浜ちゃんがMCを務めている「芸能人格付けチェック」が好きなのですが、「違いがわかる」はずの一流芸能人の化けの皮が剥がれていくようすは見ていて爽快です。一流を標ぼうしている芸能人でさえ大した味覚を持っていないのですから、一般の人はいわずもがなです。

保険は家電製品や家具、スマホなどのように直接目に見える製品ではありません。「補償」という形になっていないサービスが商品です。つまり、一般の人が簡単にわからない、もしくは理解できないサービスですので、「味覚」と同様イメージが重要になってきます。ですので、ビールと同じように有名な芸能人を幾人もCMに登場させ、イメージアップを図っています。

このように、他社との比較が容易ではない、もしくはわかりにくい商品は著名人をCMに使うことになるのですが、冒頭に書きましたように著名人と商品を販売している企業の間には「持ちつ持たれつ」の関係が生じていることになります。

先ほどと同様に説明をするなら、企業は著名人がCMに出演していることで信頼性を高め、著名人は報酬という対価を得ています。そうした関係性の中、企業は著名人が不祥事を起こした場合のリスクは十分に備えているはずです。安くもない報酬を支払うのですから相応の下調べをしているはずです。実務的には、そうした対応は広告代理店が行っているでしょうが、不祥事の責任を負う覚悟は持っているはずです。

そうした企業に比べますと、著名人の側は無防備であるように僕には見えてしまいます。先ほど「気になっているCM」の一つとして保険を上げましたが、繰り返しになりますが、保険という商品がとてもわかりにくい性質を持っているからです。

「わかりにくい」がゆえに、一般の人はその商品(保険)が「いいのか、悪いのか」判断がつきません。「いいのか、悪いのか」を言い換えるなら商品(保険)の価値が「価格に適しているか、どうか」です。例えば、100円ショップで販売している乾電池と同じものがほかのお店で500円で販売していたなら、「損をした」ことがわかります。しかし、保険ではそうした比較が容易ではありません。

経済誌などでは保険の契約内容の比較などを発表していますが、経済誌などを読まない人は正しい保険の情報を得られず、質の悪い保険に加入する可能性もあります。正しい情報に接していないばかりに「損をする」のは、確かに自己責任の部分もあるでしょうが、「質の悪い」保険に加入する理由の一つに著名人のCM(広告)があるのなら、著名人にも責任の一端はあります。と、僕には思えてしまうのです。

僕が保険のCMが気になっているのはここなのです。少しばかり知ったかぶりをさせていただきますと、保険料は「純保険料」と「付加保険料」で構成されており、両方の合計額が契約者が支払う保険料になっています。前者は保険本来の役割である「契約している人たちが助け合うため」のもので、後者は会社の費用や儲けのための費用です。

そうした中、保険会社で保険料の内訳を公表しているのは、私が知っている限り一社だけです。なぜそのような状況になっているかといいますと、保険会社が保険料の歪な内訳を世間に知られたくないからです。

↓*こちらの記事は参考になります。
https://toyokeizai.net/articles/-/141528

経済誌やネットでは、保険業界の不誠実さを問題視している記事もありますが、テレビなど一般的なメディアではあまり触れられていません。その一番の理由は、保険業界はメディアの大口の広告主だからです。ちょうど、コンビニ業界が大口の広告主であるがゆえに大手メディアで問題点が指摘されないのと同様です。

芸能界で活躍している方々にとってCMは大きな収入源になっているでしょうが、収入だけを重視して、CMの発注企業の実態について無関心でいることはとても危険なことです。折しも、つい先日お笑い芸人の方が投資話を友人に持ち掛けたことで批判される事件がありましたが、CMに出演するということは、まかり間違うと加害者になることもあり得るということを肝に銘じておくことはとても大切です。

「持ちつ持たれつ」。互いに助け合うためには、相手についてきちんと調べおくことは大前提です。一つ間違うと、悪い奴の手先になる可能性もあります。気をつけましょう。

じゃ、また。




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