<大谷選手信奉者>

pressココロ上




前回のコラムで「骨のある官僚がいなくなった」と書きましたが、先週、財務省の事務次官が「骨のある官僚」になるべく与野党の政治家に対する苦言を月刊誌に寄稿していました。もちろん最近では珍しい行動ですので、ポータルサイトのニューストピックスなどでも紹介されていましたが、「ばらまき政策」を批判するような内容となっていました。

もうすぐ衆議院選挙がありますが、政治家は当選したいがばかりに有権者が喜びそうな政策を訴える傾向があります。有権者に嫌われては投票してもらえませんので当然ですが、政策には裏付けが必要です。具体的には、「数十兆円規模の経済対策や基礎的財政収支の黒字化目標の先送り」などを「国庫には無尽蔵にお金があるかのような話ばかりが聞こえてくる」と批判していました。

素人の僕からしますと、至極まっとうな意見のように感じますが、実際問題として一千兆円以上の財政赤字はどのようにして対処するのでしょう。かつての韓国やギリシャのように国家経済が破綻してしまっては大変です。このような不安に対して、なぜか定期的に「安心論」が浮上してきますが、素人としては判断のしようがありません。それでも、なんとなく「一応、まだ大丈夫」と思わせるような解説がありましたので、こちらを紹介しておきます。

冒頭で「骨のある官僚」と書きましたが、「骨のある」などと表現しますと、まるで強大な権力を持つ政治家に正面から堂々と対峙しているように感じられますが、実際はそうでもありません。実は、寄稿する前に上司にあたる担当大臣に了解を得ているからです。つまり、後ろ盾を得ている状況での行動ですので、それほど勇気がいるわけでもなかったことになります。それでも、事務次官が政治家の姿勢を諫めるような考えを堂々と表明することが久しくありませんでしたので、意義のある寄稿だったように思います。

財政赤字になってしまうのは、歳出よりも歳入が少ないからですが、その歳入は主に税金で賄われています。その税金に関することで、先週、有名な経営者が炎上していました。その経営者とは夏野剛氏ですが、夏野氏は「税金を払っている人は、払っていない人の倍の投票権を与えてもいい」とツイートをしていたそうです。この発想は、数ヶ月前に炎上したメンタリスト・DaiGoさんの炎上動画に近いものを感じます。

夏野氏に関しては、僕はこれまで幾度かこのコラムで取り上げています。最初に取り上げたのは、夏野氏がまだベンチャー企業の副社長だったときですが、このときは夏野氏ではなく社長について書いていました。当時、その社長はインターネット界の寵児とまで言われていたのですが、社長の弁を借りるなら「出てくるのが早すぎた」ことで、最後は倒産に追い込まれていきます。

板倉雄一郎氏という方ですが、「社長失格」という本がベストセラーになっていますし、テレビ番組で再現ドラマふうに紹介されたこともあります。夏野氏は倒産する寸前に退社し、以前より知り合いであったリクルートの元編集長に声をかけてもらいNTTの「i-モード」の開発に関わります。ここでの成功がその後の人生を開かせ、ネット業界の著名人になっていくのですが、なにか一つ歯車が変わっていたなら板倉氏が夏野氏の現在の立ち位置にいた可能性もあります。

それはともかく、夏野氏やDaiGo氏のような成功した人たちの発想は、現在問題になっている「格差社会」を生む土壌になっているように思います。もし、収入の多い人が少ない人の倍の投票権を持ったなら、社会は間違いなく収入の多い人たちが「得をする」「有利になる」社会になります。巷間よく言われる「金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏に」という状況になってしまいます。まさしく格差社会の極致ですが、民主主義の社会では、投票数の多い意見がルールを決めていくことになっていますから当然です。

同じような問題として「一票の格差」問題があります。「一票の格差」とは「有権者の人数が多い選挙区と少ない選挙区では一票の価値が違う」ことですが、裁判で争われてもいます。僕の個人的な意見としては、一票の価値の平等性にこだわりすぎると、都会の人の意見ばかりが実現することになりそうで、逆に心配です。

最近、マスコミなどでは所得税における「1億円の壁」問題が報じられていますが、これも平等・公平に関する問題の1つです。所得税は累進課税ですので収入が多くなるのに従って税率が上がるのですが、いわゆるお金持ちで資産家の方々は給与所得や事業所得ではなく、金融資産の運用で収入を得る割合が多くなります。そして、金融で得た収入の税率は累進課税ではなく「20%」の一律となっています。これが「1億円の壁」です。どんなに収入が増えても税率が変わらないのですから「金持ちはより金持ちに」なることになります。

映画やドラマの世界では平凡でありきたりな人生よりもジェットコースター人生のような浮き沈みがある人生のほうが人気を集めます。あるネット企業の社長はホームレスの境遇になりながらも、努力を重ねて上場企業の社長にまで上りつめたという話を読んだことがありますが、その浮き沈みが読む人の心を惹きつけます。

今年のメジャーリーグで最も活躍した選手といいますと、言うまでもなく大谷翔平選手です。大谷選手は沈んだ経験はないでしょうが、東北に生まれた一人の野球少年が年を重ねるに従い、日本のプロ野球で活躍したあとに、海をわたりメジャーリーグで大活躍する選手にまで上りつめる過程は、下手な浮き沈み人生よりも大きな感動を与えます。

かなり前ですが、高校時代の大谷選手に密着しているドキュメンタリー番組を見たことがあります。高校生ですので現在ほど身体が大きくもガッシリもしていませんでしたが、身長はすでに周りの選手たちよりも頭一つ抜きんでていました。

バスの中でのたわいもない選手同士に会話の中で、仲がよさそうな選手の一人が、大谷選手に向かって冗談交じりに「親に感謝、親に感謝」と話しかけていたのですが、大谷選手が「(その言葉を)受け入れるのに反発するような表情をしていた」のを憶えています。

テレビ番組が密着するくらいですから、すでに有名になっていたのでしょうが、それほど注目される選手になれたのは「その立派な体格に生んでくれた親に感謝しろ」と友だちは言いたいようでした。もちろんまだ高校生ですのでやっかみもあったのでしょうが、純粋な思いでもあったように思います。

その言葉に対して納得できないような表情を浮かべた大谷選手でしたが、現在のメジャーリーグでの大活躍を見ていますと、「納得できない」気持ちになったのも理解できるというものです。なぜなら、メジャーで立派な成績を残すのは、並大抵の努力ではできません。人知れず努力をしているのでしょうが、おそらく高校時代もほかの選手以上に努力していたことが想像できるからです。

大谷選手を見ていて尊敬するのは、そうした肉体的強さはもちろんですが、それとともにというかそれ以上に精神的な強さです。高卒からプロの世界に入り、さらに海外に出て行き、そこでも活躍するのですからかなりの精神的な強さがなければできない芸当です。

「精神的な強さ」と書きますと仰々しい感じがしますが、つまりは周りの人たちとの接し方です。プロ野球の世界は一癖も二癖もありそうな個性の強い人の集まりです。そうした中でも気後れすることなく、飲み込まれることなく自分の実力を出せることが凄いことです。しかも、同じことをメジャーリーグでもやってのけているのです。これほど尊敬できることがあるでしょうか。

例えば、僕などは20才前後の頃は大人の人とは対等に会話などできませんでした。緊張して普通の精神状態でいらなかったからです。大谷選手はそうした緊張というものがないように見えます。いつでも平常心でいられそうで、そうしたところを尊敬せずにはいられません。高校時代のチームメイトが「親に感謝、親に感謝」とはやし立てていましたが、精神的な強さは大谷選手が自ら身につけていったもののように思います。そういう意味で、大谷選手は並外れた素晴らしい人といっても過言ではありません。

じゃ、また。




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