<育て方と育ち方>

pressココロ上




先週書きましたように、僕の現在の仕事はマンションなど集合住宅を回りながら清掃をする業務です。そうした業務をしていますと、ときたま住人の方と会うこともあります。そうしたとき、ほとんどの方は笑顔で感じよく挨拶をしてくださいます。中には不愛想どころか、見下しているふうで挨拶を返してくれない人もいますが、そうした人は稀です。

ほとんどの人が笑顔で挨拶をしてくれるのですが、僕なりにその理由を推測しますと、社会経験を積む中で、世の中での苦労や大変さを経験しているからだと思います。

先日、作業をしていますと、大学生ふうの青年が僕に丁寧に「いつもありがとうございます」と声をかけてくれました。その学生さんとはときたま会うこともあり、その際は明るく挨拶をしてくれていたのですが、先日はわざわざ立ち止まって話しかけてくれました。

もしかしたなら、コロナでずっと家にこもり切りの状態で、「誰かと話したかったから」かもしれませんが、それを差し引いても丁寧なお礼の言葉には感激しました。このように学生さんくらいの若い人が感じよく接してくれるときに、いつも思い出す場面があります。

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ラーメン店時代、学生と思しき男性が定期的に食べに来てくれていました。その男性は愛想がいいわけでもなく、ただ普通に食べてなにも言わずに普通にお金を払って帰って行っていました。

ところがある日、その学生さんがお金を支払う際に「ごちそうさまでした」と声を発したのです。少しばかりぎこちなさはありましたが、僕に聞こえるようにしっかりとした口調でお礼の言葉をかけてきました。人間はなにかのきっかけで考え方が変わることがありますが、その学生さんもなにかのきっかけがあったのかもしれません。もしかしたなら、来店しはじめた当初から「ごちそうさまでした」と声をかけたかったのに、タイミングがつかめずに言えなかった可能性もあります。どちらにしても僕からしますと、驚きのうれしいできごとでした。

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作業中の僕にお礼を言ってくれたのは大学生くらいの青年でしたが、学生とはいえ体格的には大人と変わりありませんので、なんの違和感もなくすんなりとお礼の言葉を受け入れることができました。しかし、すんなりとはいかないケースもあります。

その日は春先とはいえ夏日を思わせるくらいの暑い日でした。通路で作業をしていますと、通路の端のほうから小学4~5年生くらいの女の子が歩いてくるのが見えました。女の子はランドセルをしょっていましたので、学校から下校してきたところなのでしょう。近くまで来ましたので、僕はいつものように「こんにちは」と声をかけまました。すると、なんとその女の子はこのように返してきたのです。

「暑いですので、身体に気をつけてください」

僕は「ありがとうございます」と答えたのですが、小学4~5年生とは思えない大人びた言葉遣いが女の子の口から出てきたことに驚きました。男の子ですと、面白半分でからかいと言いますか、お茶目なニュアンスで言うこともあるかもしれません。しかし、その女の子は真剣な眼差しで僕を気遣うように話しかけてきました。これを感動と言わずなんと言いましょう。

このように住民の方たちは、ほとんどの方は僕に優しく接してくれるのですが、実はこうした対応をしてくれるのは、僕が回っている物件がすべて賃貸であることが関係していると思っています。これが分譲となりますと、少し趣が変わってきます。

僕がラーメン店を営んでいた店舗はマンションの1階だったのですが、そのマンション自体は分譲マンションでした。1階はすべてテナントで、2階から上はすべて分譲です。一般的に、分譲マンションには管理人さんがいるのですが、入居者さんの中には管理人さんに対して見下したような雰囲気で接する人もいました。そうした雰囲気を醸し出してしまうのは、分譲マンションに住んでいるという優越感がなさせるように感じていました。見ている僕からしますと、あまり感じのいいものではありませんでした。

先ほどの女の子を見送ったあと、僕が思ったのは、その女の子の親御さんの育て方です。子どもに将来の職業について質問する場面で、子供が答える職業のほとんどは親御さんの教育方針とか考え方が影響しています。子供にとって、世界は「親の考え方」と言っても過言ではありません。ですので、親がなってほしい職業が、子供のなりたい職業になっていることは多々あります。子供は親の育て方が影響しているのが普通です。あのときの女の子の言葉遣いも間違いなく親御さんの影響です。

娘が二十歳前後の頃、アルバイト先には中高年の女性、つまりオバさんたちがたくさんいたそうです。ある日娘が不満げに言いました。

「わたし、バイト先では周りの大人の人たちに気を使いながら真面目に一生懸命働いているのよね。でもね、なんでか、『あなたのご両親って、偉いのね』って、言われるの。なんで、わたしがいいことしてるのにお父さんたちが褒められるの。損した気分」

娘の不満は理解できますが、僕にはどうすることもできません。我慢してもらうしかないじゃぁ、ありませんか。(^o^)

娘の周りのオバさんたちに褒められた僕ですが、その僕の親は僕の周りの大人たちから褒められていたのか、と言いますと、そんなことは決してありません。僕は親に反発することが多い息子だったのですが、晩年はずっと仲たがいしていました。僕が親に反発したのは、考え方が違うことが多かったからです。当然、子供の頃は親の考え方に染まっていましたが、二十歳を越え社会人になり社会経験を積むにつれて、考え方の違いに我慢ができなくなっていったからです。

先ほどの小学生の女の子もいつしか、親の考え方に疑問を感じ、自分の道を歩くようになるでしょう。親の育て方が影響するのは、遅くても高校生くらいまで。それから先は、好むと好まざるにかかわらず、当人がいろいろな経験をしながら、自らの考えを持つようになっていきます。

特に、社会人になりますと、親以外の大人に出会い、親以外の考え方に触れる機会が多くなります。ときには、「目からウロコ」ということもあるでしょう。そして、失敗や挫折を経験しながら、そのときどきで考え方が変わっていきます。僕などは失敗と挫折の繰り返しですので、考え方が変わってばかりです。

最後に、「育て方」は自分ではどうすることもできませんが、「育ち方」は自分で決めることができます。

じゃ、また。




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