<ウクライナ>

pressココロ上




やはり書かずにはいられません。先週の時点では「やるぞ、やるぞ」と見せかけているだけと思っていたロシアのウクライナへの侵攻ですが、本当にやってしまいました。これが1900年初頭の世界が混沌としていた時代ならうなづけますが、2022年の現代に起こるとは想像もしていませんでした。

先週のコラムで「戦争というのは“ちょっとしたはずみ”や“きっかけ”で偶発的にはじまる」と書きましたが、プーチン大統領の動きを見ていますと「偶発的」ではなく、用意周到に準備された計画どおりの侵攻だったことがわかります。

ウクライナのゼレンスキー大統領は周りの国々に「助けてほしい」と訴えていますが、NATOもEUも米国も「派兵はしない」と明言しています。一見冷たい発言のように聞こえますが、本格的に参戦してしまいますと、大きな戦争、しかもプーチン大統領は「我が国は核保有国」とけん制する発言までしていますので、容易に動けないのも理解できます。

僕が接した情報では、ウクライナはNATOに加盟する手続きを求めていたらしいのですが、要件を満たしていないことが幾つかあり、手続きが停滞している状況だったようです。プーチン大統領は加盟するその前に実力行使をしたわけですが、プーチン大統領からしますと今しかタイミングがなかったのでしょう。

しかし、その発想はあくまでプーチン大統領の考えであってウクライナからしますと余計なお世話です。プーチン大統領はソ連が崩壊したあとに、ワルシャワ条約機構に加盟していた国々がこぞってNATOに転換したことが気に入らなかったようです。ちなみに、ワルシャワ条約機構とはソ連と東欧の8カ国が、西側のNATOに対抗して結成した軍事同盟です。

今回のロシアのウクライナ侵攻に際して、ワルシャワ機構からNATOに移行したポーランドとバルト三国がロシアを非難する声明を発表しています。僕からしますとウクライナももっと早くにNATOに加盟していたなら今回のような事態を避けられたように思います。しかし、いろいろな記事を読みますと、ウクライナ特有の事情があるようでした。

まず挙げなければいけないのは、ロシアというかプーチン大統領にとってウクライナは絶対に取り込んでおかなければいけない位置にする国ということです。先週も書きましたが、ロシアからしますと地理的にNATOとのバッファー・ゾーン(緩衝地帯)であることと、そもそもプーチン大統領はウクライナを自分たちの弟分、もっと言ってしまいますと舎弟と考えている節があります。プーチン大統領が「現代ウクライナはロシア、さらに正確にはボリシェビキ共産主義ロシアによって作られた」と演説で話していることからもうかがえます。

そもそもロシアは民主国家と呼べる国家体制にはなっていません。なにしろ野党の政治家が拘束されているのですから独裁国家と変わりありません。今回、ロシアの侵攻に対してロシア内でも「反戦デモ」が起きている映像が映し出されていましたが、参加者が警察によって拘束されていました。

民主国家と呼べない最大の理由は、プーチン氏が自らが永遠に大統領の地位にいられるように法律まで変えてしまったことです。このようなことが行われていて、ロシア国民はなんの疑問も感じないのか、不思議です。一応上院下院と議会はあるようですが、実質的にはないも同然です。

ウクライナのゼレンスキー大統領は元コメディアンということで、その経歴の物珍しさから今回の侵攻がある前からニュースで報じられていました。詳しくは知りませんが、日本で言いますとビートたけしさんが首相になったようなことなのでしょうか。これは僕の勝手な思い込みですが、コメディアンが大統領にまで上りつめられるということは、ある意味民主政治が行われていることの証左でもあります。日本でも選挙は、つまるところ人気投票に近い部分がありますので、似たような流れてコメディアンが国のトップにまで上りつめたことになります。

これは僕の想像でしかありませんが、ある意味「軽い気持ち」で立候補したのではないでしょうか。それが、あれよあれよ、という間に当選して、一番戸惑っていたのはゼレンスキー氏自身かもしれません。そう思うがゆえに、今回のロシアの侵攻は全くの想像外でかなりの衝撃だったはずです。なにしろ隣国から攻め込まれてそれに対処する術をすべて自分で決定しなければいけないのですから、そのプレッシャーたるや想像を絶しているでしょう。

そのような精神状態であるはずのゼレンスキー大統領ですが、立派に大統領の職を果たしているように映ります。そこにはコメディアンとしての経験も生きているのではないか、と思っています。コメディアンほど難しく繊細な芸事はないからです。

そのゼレンスキー大統領の決断で一つだけ引っかかっていることがあります。それは最後まで抵抗すべく国民総動員令を発したことです。これにより18才から60才までの男性は出国ができず、戦闘に参加しなければいけないそうです。僕の読んだ記事では、ロシアとウクライナの戦力は10倍ほどの差があるそうです。10倍です。これほど桁違いの戦力では、どれほど頑張っても勝てるとは思えません。

日本は先の戦争で、特攻隊という飛行機の部隊を作りました。飛行機諸共敵国の艦船に突っこむ戦術です。勝ち目がないにもかかわらず、若い命を無駄に死に追いやったのです。僕にはゼレンスキー大統領が国民に同じ命令をしているようで居たたまれない気持ちになります。

日本は戦後、「東洋の奇跡」といわれるほどの高度経済成長を成し遂げましたが、それが可能だったのも本土決戦に至る前に降伏したからだと思っています。これに対してはいろいろな意見もあるでしょうが、一つの要因であったのは間違いのないところでしょう。

僕が小学5年生のときの担任は森山先生という黒縁眼鏡をかけた40半ばの男性でした。森山先生がある日、ホームルームの時間にしみじみと言っていました。

「あのね、日本はソ連じゃなくて、アメリカに占領されてほんとよかったんだよぉ」

歴史を見て行きますと明確ですが、ソ連の経済政策を実行しますと破綻しますし、産業の発展もおぼつかなくなります。それよりも恐ろしいのは自由がないことです。そのような国に統治されていたなら、今の日本の繁栄は絶対になかったでしょう。森山先生は本当にいいこと言っていました。

それはともかく、ゼレンスキー大統領は国民のために、ここは一歩引いて早めに降伏することも選択肢に入れてほしいと思っています。10年20年と長いスパンにはなりますが、一時はロシアの属国になったとしても、いつかは穏やかで暮らしやすい国家になるかもしれません。今目の前にある死より未来の人生です。

ただ一つ心配なことは、もし降伏したなら国家のトップを務めていたゼレンスキー大統領の処遇です。プーチン大統領は侵攻する際の名目として「虐殺されていたロシア国民を救う」などと語っていましたので、なにかしらの大きな処罰が行われる可能性もあります。NATOも米国も派兵しない中で単独でロシアと戦うのは無謀です。早めの終結方法を見出すことが喫緊に必要です。

しかし、日本も他人事ではありません。防衛について真剣に考える時期にきているのかもしれません。ですが、ただ一つ絶対に忘れていけないことは文民統制の看板を一瞬たりとも降ろさないことです。

じゃ、また。




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