<人材力>

pressココロ上




僕は、自分のことを「リベラル」でも「保守」でもないと思っていますが、岸田首相がいきなり軍備拡張・増強に舵を切ったことにはあまり納得していません。「いきなり」と書きましたが、今回軍備の財源について突然マスコミで大きく報じられましたが、「財源」の話をする前に、「軍備拡張・増強」の是非についてもっと議論がなされなければいけない、と思っています。

これまで日本は専守防衛を基本政策にしていた国ですが、それが大きな議論もなく、なし崩し的に話が進められ、「反撃能力を持つこと」を前提として議論の中身が財源に移っています。本来はそれ以前に「反撃能力」の是非や「安保3法案」の中身についてもっと議論することが必要です。

このように書きますと、僕が「反撃能力を持つこと」に反対していると思われそうですが、実は僕は、「反撃能力」には賛成です。あくまで素人的発想ですが、軍事技術が高度化している現在「専守防衛」ではなんの意味もなさない、と思っています。例えば、敵がミサイルを打ってから守るのでは太刀打ちできないでしょう。やはり、敵がミサイルを撃つ前にその基地を攻撃しなければ防衛することは不可能です。

そんな考えの僕ですが、国の要である防衛政策を変更する手順は守られなければならない、と思っています。僕が納得できないのは、繰り返しになりますが、「反撃能力」も含めて防衛政策を180度舵を切ることになるにもかかわらず、議論もなされずそれが既定のこととして進められていることです。

僕からしますと、現在の「防衛政策の転換」がなし崩し的に進められている状況はマスコミにも責任があると思っています。マスコミでは「財源」をどこに求めるかを報道の中心にしていますが、その前に「日本の防衛政策の大転換」について解説・説明することが先です。詳細は忘れてしまいましたが、かつて「新聞は社会の木鐸たれ」と喝破していた知識人がいました。マスコミには「社会を啓蒙する」役割もあるように思っていますので、その意味においてマスコミの責任は大きいと思っています。

マスコミが現在のような状況になってしまった背景には、マスコミの「他社よりも早く」という報道姿勢があるように思います。幾人かの新聞記者の回想録などを読んだことがありますが、新人記者は最初に「他社よりも早く記事にすること」を叩きこまれるそうです。僕はそうした体質がマスコミの弊害となっているように思えて仕方ありません。

僕はこのマスコミの「抜いた」「抜かれた」競争はなんの意味もないと思っています。僕が最初にそれを知ったのは日経新聞の記者だった田勢康弘さんという方がテレビで「スクープ」について語っていたときです。

田勢さんは「スクープとは、歴史に埋もれていたこと、埋もれてしまうことを丹念に取材をして報道すること」と話していました。また、「いつか発表されるニュースを他社よりも早く伝えることは、スクープではない」とも話していました。「なるほど!」とやけに合点した記憶があります。

話は逸れますが、これほど素晴らしい見識の持ち主である田勢さんでしたが、残念なことにその後大学の教授時代に女子学生に対するセクハラで解職されるという事件を起こしているそうです。「棺を蓋いて事定まる」(ひつぎをおおいてことさだまる)ということわざがありますが、素晴らしい見識の持ち主でも死ぬまで評価は決まらないことと、心の中まではわからないことを教えてくれています。

僕は文春digitalを購読しているのですが、その中に元読売新聞記者の清武英利さんという方が連載を持っています。現在は新聞記者時代のことを書いているのですが、その記事に新聞記者の新人研修時代のことが書かれていました。新人は最初に警察の担当になるらしいのですが、警察担当で重要なことは刑事と親密な関係になることだそうです。わかりやすく言いますと、刑事の懐に飛び込み気に入られて「特別な計らいを受ける」ことですが、これはまさに「他社を抜く」ことが目的でした。

刑事の懐に飛び込むためには、いわゆる「夜討ち朝駆け」が求められるようでしたが、新人記者が最初に警察担当になるのは、この「夜討ち朝駆け」を身につけさせることで記者魂を注入する意図があるように感じました。学生の体育会系のような研修ですが、僕からしますと、そうした研修制度が新聞記者に「誤ったスクープ感」を身につけさせているように思います。

人は誰しも心の中まではわかりませんが、今の岸田首相を見ていますと特にそれを感じます。就任当初は「聞く力」を標ぼうしていましたが、最近の首相を見ていますと「『聞く力』もどこへ行ったやら」といった感じです。しかし、問題を起こした閣僚の処遇などを見ていますと、「聞く力」を発揮しすぎて右往左往しているようにも見えます。

それにしても「奇遇だなぁ」と思うのは、本来は「ハト派」である岸田首相のときに「防衛力の増強・拡充」が決められていることです。「タカ派」とまではいいませんが、保守であり軍備強化を目指していた安倍元首相が防衛力の拡充・増強を進めるのならなんの不思議もありません。それが「ハト派」の岸田首相が決めているのですから「奇遇」を感じずにはいられません。

もちろんロシアによるウクライナ侵攻といった現在の世界情勢が影響を与えていることは十分理解できますが、そうした状況になったのがよりにもよって「岸田さんが首相のとき」というのが「奇遇」と思わさせる理由です。時代のめぐり合わせと言ってしまえばそれまでですが、まるで軍備強化の必然性を示しているようでもあります。

ここから先は僕の妄想ということでお読みいただきたいのですが、岸田首相の変遷はすべて安倍元首相の襲撃からはじまっていると思っています。安倍元首相という「重石」が外れたことで、本来なら自分の思い通りに決められる状況になったはずですが、実際は逆に物事がスムーズに進めにくくなっています。その理由は逆説となりますが、「重石がなくなった」からでした。

安倍元首相が存命中は安倍元首相を説得することで反対勢力を抑えることができていたものが、安倍元首相がいなくなったことで反対勢力を抑えにくくなっているように映ります。反対勢力がバラバラになったことでモグラたたきがごとく抑えがきかなくなっているのですが、それがドタバタしているように見える大きな要因です。

あと一つ思うのは岸田首相を支えるスタッフの方々の力不足です。安倍さんが首相の頃によくこのコラムで書きましたが、安倍さんの周りのスタッフには素晴らしい感性の持ち主が揃っていました。そうしたスタッフの存在が約8年という長期政権を実現していたと思います。そうした安倍政権を見ていただけに、現在の岸田首相のドタバタぶりはスタッフの力不足を感じずにはいられません。

もっと感性の鋭いスタッフが周りに揃っていたなら問題を起こした閣僚の処遇ももっと早く対応できたのではないでしょうか。今の岸田首相を見ていますと、大きな組織でそのトップに求められる一番の能力は「人材を揃える能力」であることがわかります。

それにしても一国の総理って大変だろうなぁ…。

じゃ、また。




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