<職人技>

pressココロ上




僕は毎週、妻とヨーカドーに買い物に行っているのですが、先週の帰り道、たまたまヨーカドーの建物の上に掲げられた看板に目が留まりました。そこには「鳩のマーク」が描かれていたのですが、それを見たときにあることを思い出しました。たしか、一時期は「鳩のマーク」ではなく、「セブン&i」のロゴだったように記憶しています。そこでネットで調べてみますと、現在、看板のすべてが「鳩のマーク」になっているわけではなく、建物の四面のうち、半分が「鳩のマーク」、残りが「セブン&i」のロゴという状態のようでした。いずれにしても、「鳩のマーク」が復活していることは間違いありません。

昨年あたりから、ヨーカドーと投資ファンドとの間に軋轢があると報じられていますが、そうした動きと関連して、「セブン&i」グループからヨーカドーを切り離す流れが進んでいるようです。報道によれば、経営陣の内部対立もあったようで、セブンイレブンの実質的創業者である鈴木敏文氏が退任して以降、こうした動きが加速しているような感じがします。

現実的に言って、今の「セブン&i」グループをけん引しているのはコンビニ事業です。いわゆるスーパー業態はグループ全体の足を引っ張っている状況にあり、コンビニに資源を集中させようという考えは理解できます。ただ、正直なところ、僕はセブンイレブンの成功にあまり好印象を持っていません。その理由は、セブンイレブンが「フランチャイズシステム」で拡大してきたからです。

最近はあまり触れていませんが、実は僕の「脱サラをする前に」というサイトは、フランチャイズシステムの問題点を、少しでも多くの人に知ってもらいたいという目的で始めたものでした。数年前、大阪の加盟店が裁判を起こし話題になりましたが、結果的には「加盟店の敗北」というように見えました。

裁判では敗訴となったものの、僕自身はフランチャイズシステムほど「本部に有利で不公平な仕組みはない」と考えています。現在、コンビニは社会にとってインフラのような存在になっていますが、そこまでの地位を確立できたのは、まさにフランチャイズ方式を採用していたからです。もしフランチャイズでなかったなら、ここまでの成長はなかったかもしれません。

久しぶりにコンビニやフランチャイズについて書いていますので、今回は久々に「悪口」も多くことにします (^o^)。

フランチャイズの最大の問題点は、加盟店主を「個人事業主」として扱いながら、実態としてはほぼ「従業員」に近い立場にしていることです。休日も営業時間も自由に決められない「オーナー」は、本来の意味での「個人事業主」ではありません。その自由がないだけでも大きな問題ですが、たとえば深夜営業を勝手にやめた場合、違約金を請求されることさえあります。自分の店であるにもかかわらず、営業時間を変更しただけで違約金を取られるなど、あってはならないことだと思います。

とはいえ、そうした不公平な契約条件にもかかわらず、加盟する人が現実に存在するのも事実です。中には、その問題点に気づかずに加盟した人もいるかもしれませんが、多くの人はそれを承知のうえで加盟しているはずです。正直なところ、僕にはそうした人の気持ちは理解しがたいのですが、それが現実です。ここまでくると、もう人生観の違いなのかもしれません。

契約上の不公平さは確かに存在しますが、一方でフランチャイズには一定のメリットもあります。正確に言えば、それは「フランチャイズ」というより「チェーン店」としてのメリットですが、研修制度やマニュアルが整っている点は大きいです。仕事のやり方を効率的かつ的確に学べるというのは大きな利点です。もし一から自分で身につけようとすれば、時間もお金もそれなりにかかります。そうした負担を軽減できる点は評価できます。

どんな職業でも、仕事を身につけるのは簡単なことではありません。大きな企業ではチェーン店のように研修が充実していますが、小さな企業になりますとそこまでの余裕はなく、「働きながら覚える」のが一般的です。ただ、この「働きながら覚える」というのが曲者です。なぜなら、教える人の力量によって教え方がまったく違うからです。

マニュアルや研修制度は、一定の基準で画一化されているため、誰が教えても、教わる側が戸惑うことは少なくなります。ときおりマニュアルに否定的な意見を耳にしますが、教わる立場からしますと、統一された指導を受けられるのは大きな安心材料です。今の時代、もしパワハラ気質のある上司に自己流で教えられたら、たまったものではありません。

これは僕の持論ですが、ある人の「実力」を見極めたいときは、その人に「新人を教育させてみる」のが一番です。人に仕事を教えることほど難しいことはありません。普段から曖昧なまま仕事をしている人は、業務内容を正確に理解していないため、新人に教えることができません。つまり、他人に教えるということは、その仕事を完全に自分のものにしている必要があるのです。「教える」という行為には、実力が問われる要素があります。

しかし、教える人の力量にバラつきがあれば、新人の育成には大きな影響が出ます。そうした弊害を防ぐためにも、マニュアルの存在は必要です。ただし、どんなスキルでもマニュアル化できるわけではありません。

たとえば、メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手。誰もが彼のように活躍できるわけではありません。大谷選手だけが持っている特別なスキルがあるはずで、それは「職人技」と呼ばれる領域のものです。決してマニュアルで教えられるものではありません。

野球の世界に限らず、職人技を身につけている人は存在します。職人技とは、一般の人には真似できないスキルのことであり、それを習得するには多くの時間と経験が必要です。たとえば大工さん。マニュアルを読んだからといって、すぐに習得できるものではありません。実際に手を動かし、失敗を重ねながら覚えていくものです。普通の人には、そうした時間や環境を確保することが難しいため、職人技を身につけることが難しいのです。

職人の世界では「技術は盗んで覚えろ」とよく言われますが、この言葉には「実際に自分で経験して体得しろ」という意味が込められているのでしょう。ただ、僕はこの「盗んで」という表現に少し違和感を覚えます。その裏には「教えない」、もっと言えば「教えたくない」という思いが隠れているように感じるからです。

これまで書いてきたとおり、「教える」というのは大変な作業です。実力がなければ教えられません。「盗んで覚えろ」という言葉は、そうした教育の責任から逃げるための言い訳、あるいは「職人技」を隠れ蓑にした逃避のように思えてしまいます。そして、これはフランチャイズにも通じる問題だと感じています。それは、「身分保障」の問題です。

僕がコロッケ店をやっていた頃、大工さんの奥さんが雨の日に買い物に来て、「うちの旦那、今日は雨だから仕事がなくて。職人はこういう時、仕方ないよねぇ」とこぼしていました。僕はこうした職人の労働環境に、大きな問題があると考えています。もし普通の会社で、天候などの理由で仕事ができなかったときに給料が支払われなければ、従業員はすぐに辞めてしまうでしょう。ところが、職人の世界では、そうした状況が「当たり前」とされているのです。

最近では、大手建設会社が職人を育成するための新たなシステムを導入しているそうですが、こうした取り組みが当たり前になることで、職人の未来も少しずつ開けていくのではないでしょうか。一般企業と変わらない待遇になるよう、ぜひ工夫を重ねてほしいと思います。

それこそ、職人技で。

じゃ、また。




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