<発想の転換>

pressココロ上




ビジネス関連のネット記事を読むことが多いのですが、その中でいつも心にひっかかる言葉があります。それは若い人がよく発しているのですが、「将来の夢は、自分の店を持つことです」という言葉です。この言葉の裏には、「上司や同僚に気兼ねなく、自分の好きなように働ける」とか「思い通りにお店を運営、経営できる」という気持ちがあります。

僕は30才の誕生月に自分のお店を持ったのですが、ある意味多くの若者の夢を実行に移したことになります。僕の場合は、世間知らずでビジネスの知識も経験もありませんでしたので、ひと言で言いますと「若気の至り」に尽きます。これが30才半ばくらいの年齢になりますと、世の中の怖さや奥深さを体験し、尻込みしたかもしれません。しかし、まだ20代でしたので「夢を果たす」ことができました。

経験者からしますと、「自分の店を持つ」ことは夢でもなんでもありません。お金さえ用意できたなら誰でも「お店を持つ」ことはできます。しかし、多くの人はその「お金さえ用意できたなら」が高いハードルと思います。しかし、「若気の至り」の僕はハードルとは感じませんでした。ただひたすら一定額を貯めることを目指し、それを実現させ、足りない分は借金をしました。

確かに、資金というハードルは高いのですが、真面目にコツコツやりさえすれば越えられないハードルではありません。今の時代は、僕が脱サラした30年以上前でも同じですが、お金を工面するのはさほど難しいことではありません。

もちろん一般の金融機関や金利の低い公的機関からの借り入れはむずかしいのが現実です。しかし、それ以外にいくらでも借り入れる方法はあります。当然、一般の金融機関や公的機関よりは金利は高くなりますが、それを承知するならお金の調達方法はあります。実際、僕はそうやってお金を工面しました。

しかし、当時の僕はそこまで深く考えていたわけではなく、FC本部に言われるままに手続きをしただけです。今から振り返りますと、あまりに無謀でリスクの高いやり方でしたが、それでも14年続けられたのは「運がよかったから」です。謙遜でもなんでもなくそれでした。

僕の体験は「脱サラ記」を読んでいただくとして、とにかく「お店を持つ」のは誰でもできますので夢でもなんでもありません。「夢」にあてはまるのは「お店を継続させる」ことです。これこそを「夢」にするのが正しい考え方です。

「夢」は実現が困難だからこそ「夢」と呼ばれます。その意味で言いますと、まさしく「お店を継続させる」ことは困難です。「夢」と呼ぶにふさわしい価値があります。それを勘違いして、単に「お店を持つこと」を夢としてしまいますと、そのあとが続かなくなります。開店して3ヶ月で廃業となってしまいます。実際、僕と同時期に始めた人で3ヶ月で廃業した人がいました。

あとに残ったのは数百万円の借金ですが、たまたまその方はマンションを持っていましたので、それを売却して借金返済に充てたそうです。資産を持っていない人は、サラリーマンをやりながら返済を続ける必要があります。どれほど大変か想像がつくと思います。

このような悲惨な結果を迎えるケースは目的を勘違いするからです。脱サラ・独立の目的は「お店を持つ」ことではなく、「経営を続ける」ことです。もう少し具体的な言い方をするなら、「生活費を確保し続ける」ことです。お店を持つことは「生活の糧」を得るための手段です。サラリーマンがお給料を得ることと同じです。

中には、もっと壮大に「事業拡大」と高らかに掲げる人もいるかもしれません。ですが、事業拡大を目指している人も、元々の根源には「生活の糧」を得ることが目的にあります。生活なくして事業拡大もないのですから。

ユーチューバーという職業が注目されるようになってからかなり経ちますが、先日「フワちゃん」というユーチューバーがテレビで取材を受けている番組を見ました。僕はそれまで「フワちゃん」を普通の女性タレントと思っていましたが、その番組で本来の活動場所がユーチューブであることを知りました。

僕がテレビで見たことがあるフワちゃんは、おチャラケたお笑い芸人というイメージでしたが、その取材番組では違った面を見せていました。そこではお笑いに対するしっかりとした考えや今後のユーチューバーのあり方などプロヂューサー的な発想も話していました。その話ぶりからは外見だけでは想像もつかない深い考察力を持っていることが伝わってきました。

その取材の中で、フワちゃんと一緒にユーチューブの活動をしている男性が出てきたのですが、この男性の存在が僕の興味を引きました。この男性はカメラを撮影している方でしたが、フワちゃんによりますと、この男性は「親よりも大切な恩人」だそうです。なぜなら、この男性がフワちゃんにユーチューバーになることを勧めたからです。

その男性はフワちゃんと同年代でしたが、元々はテレビ局でADとか放送作家をしていたそうです。その男性曰く「自分よりも才能があり、根性がある先輩たちがたくさんいる中で、自分がのし上がっていくのは不可能」と悟ったそうです。それで、フワちゃんと組み、ユーチューバーとして大成功しているのですが、変わり身の早さに感心しました。

放送作家をしていた期間がわずか数ヶ月だったのですが、数ヶ月では放送作家として独り立ちしているとはいえません。以前、なにかで読んだ記事によりますと、放送作家になるには見習い期間なども含めて数年は下積みが必要だそうです。それを数ヶ月で見切ったのですから先見の明があるということになります。

一流の放送作家になるには膨大な数の企画を上げる必要があるそうです。それくらい考えることができて初めて、スタート台に立つ資格を得られるそうです。話は変わりますが、現在はユーチューバーとして活躍しているキングコングの梶原雄太さんは一時期芸能界を離れていますが、その原因の一つが企画提出のプレッシャーに押しつぶされたからだそうです。

梶原さんは相方の西野亮廣さんと、テレビ番組「はねるのトびら」のレギュラーとして活躍していました。しかし、この番組では毎回企画をプロヂューサーにたくさんの企画を提出しなければいけないそうなのですが、それが苦痛すぎて逃げたそうです。梶原さんが話していましたが、西野さんはそれを苦も無くこなしていたそうですから、西野さんの才能の凄さがわかろうというものです。

これらの話から想像しますと、テレビ局というところは企画をたくさん上げるのが一つのステータスになっているように感じます。僕からしますと、体育会のノリです。先輩が後輩に難題を押し付けてそれを上手にこなして、少しずつ自分の立場を確保していく光景です。

フワちゃんと組んでいる男性はそれを拒否したことになりますが、そこにテレビ界における新しい潮流を感じました。テレビ界に限らないのですが、いわゆる業界関連では、どれだけアイディアを出せるかが才能の有無につながっているところがあります。例えば、「ほぼ日」で有名な糸井重里さんは弟子という部下の人に「千本ノック」と称してたくさんのアイディアを出すことを求めているそうです。

「千本ノック」という言葉から想像できるように、業界の至るところで体育会の発想がはびこっています。これを変えない限り、業界は旧態依然の発想から抜けきることはできないでしょう。脱サラでラーメン店を始めるのも発想の転換が必要です。昔は、サラリーマンを辞めて独立、お店さえ構えたならサラリーマンよりも稼げた時代がありました。

しかし、今の時代は違います。下手をするとサラリーマンのほうが収入が多いことさえあります。ましてや今はコロナ全盛です。こんな時代は、脱サラしてお店を構えるのは自殺行為です。時代の変遷に合わせて、考え方を変えるのが生き残っていくための方策です。

そんなことを思わせたフワちゃんとその相棒でした。

じゃ、また。




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