トランプ大統領の暴走は止まらず、世界はその余波に振り回されています。関税のみならず、これまでとは異なる視点からさまざまな政策を実行しようとしています。現在の一番のニュースは、ハーバード大学への「助成金凍結」や「留学生の受け入れ禁止」などの締め付けです。多くの識者やマスコミがこうしたやり方を批判していますが、ひねくれ者で素直な僕は、時に「トランプ大統領にも一理あるのでは」と思ってしまうことがあります。
例えば、トランプ大統領は「なぜ外国の学生に我が国の税金を使わなければならないのか」とハーバード大学を批判しています。確かに、言われてみますと、うなずける部分もあります。大統領は「留学生の比率31%は高すぎる、15%程度に抑えるべきだ」と訴えていますが、国民から徴収した税金である以上、理にかなっているとも言えます。
同様のことは国際機関でも起こっています。例えば、トランプ政権は世界保健機関(WHO)からの脱退を決めました。その理由は「資金の負担が不公平だから」です。中国の人口がアメリカより多いにもかかわらず、アメリカは年間5億ドル、中国はわずか4000万ドルしか拠出していないそうです。これも、聞いてみれば納得できる理由です。
こうしたニュースに触れると、僕は日本における朝鮮学校の補助金問題を思い浮かべます。東京都では石原都政時代に補助金が停止されましたが、これもトランプ大統領と同じような発想からでしょう。この問題にはあまり詳しくないので深堀りはしませんが、「自国優先」の考えはどこの国で起こっても不思議ではありません。
しかし、だからこそ「調整」が必要なのではないでしょうか。地球上ではこれまでに二度の世界大戦が起きていますが、その根底にあるのは、自国優先主義同士の衝突だったと言えます。そうした反省から、国際連合などの国際機関が設立されたはずです。それにもかかわらず、そうした国際機関から離れようとするトランプ大統領は、時代を逆行しているように見えます。
どの国も、自国を優先したい気持ちは同じです。こう書くと、次に「では、自国とは何か?」という問いが浮かび上がります。この問いを深く掘り下げる知識も僕にはありませんが、これまでに出会った言葉で最も膝を打ったのは次の箴言です。
「イデオロギー百年、民族千年、宗教永遠。」
どこで読んだのかも思い出せませんが、これほど核心を突いた言葉はありません。世界の紛争を見渡しますと、まさにこの言葉に尽きるのです。現在、イスラエルがガザを侵攻し、世界から批判されています。しかし、イスラエル国内にも侵攻に反対する人がいる一方で、支持する勢力が存在するのも事実です。マスコミでは「ネタニヤフ首相が保身のために侵攻を続けている」と報じる記事がありますが、それだけでなく、歴史からの体感が彼らを駆り立てているという解説も見かけます。
恥ずかしながら、僕はそもそもイスラエルの建国の経緯を、さらにはユダヤ人がなぜ迫害されるようになったのかを知りませんでした。ホロコーストの虐殺については知っていましたが、その根本的な背景は知りませんでした。ところが、つい先日、ある記事でその起源を知りました。実にあっけなく。
もともとユダヤ人は、今のイスラエルがある「パレスチナ地方」に住んでいたそうです。約2000年前のことです。そのとき、ローマ帝国によって滅ぼされ、世界中に散り、流浪の民となったのだそうです。このことを知ると、国家のあり方の難しさを痛感せずにはいられません。つまり、あのイスラエル地域はもともとユダヤ人の国家だったものがローマ帝国に奪われ、やがてパレスチナ人が住むようになったという経緯があったのです。
その後、歴史の中でイギリスやオスマン帝国、フランス、ロシアなどが関与し、複雑な事情が絡んできます。しかし、歴史にあまり興味のない僕のような普通の人が習ったのは、第二次世界大戦後にイスラエルが建国されたことくらいでした。そうなのです。僕の知識はそこまででしたが、先日偶然「ユダヤ人国家はローマ帝国に滅ぼされた」と読んで、思わず膝を打ったのです。「遅い!」と思われる方も多いでしょうねぇ。
僕はNHKの歴史番組が好きで、「NHKスペシャル」や「20世紀映像のバタフライ」などを毎週「NHKプラス」で見ています。先日も「NHKスペシャル」で旧ユーゴスラビアを取り上げたドキュメンタリーを観ました。以前からユーゴスラビアに興味があったのですが、そのきっかけは、このコラムで何度か紹介している『戦争広告代理店』という本を読んだことです。
この本は、戦争において「いかに世界世論を味方につけるか」が重要であることを解説しています。冒頭には、「今、セルビアが悪者にされているのは、アメリカの広告代理店の力だ」といったことが書かれていました。ご存じの方も多いでしょうが、ユーゴスラビアは第二次世界大戦後、チトー大統領のもとで複数の民族が共存していました。しかし、チトー大統領の死後、民族間の紛争が激化し、セルビアとクロアチアの争いが深刻化しました。
実際、当時アメリカはユーゴスラビアにほとんど関心がありませんでした。トランプ政権ではありませんが、アメリカから見れば中東の遠い紛争でした。そんな中、クロアチアはアメリカの広告代理店と契約し、「セルビアは悪者」という空気を作り出すことに成功したのです。その結果、世界世論が動き、国連がセルビアを空爆し、クロアチアの独立が実現しました。僕が観た「NHKスペシャル」は、その出来事から20年後、当時インタビューしたクロアチア人男性をNHKの女性ディレクターが訪ねるという内容のドキュメンタリーでした。
タイトルは『戦争には勝ったけれど ~旧ユーゴスラビアの記憶をたどって~』。文字通り、国連の空爆によってクロアチアは勝利を収めましたが、現在の状況をみますと、決して幸せにはなっていないようでした。つまり、戦争に勝利しても幸せにはなれないのです。そんなことを教えてくれる番組でした。
このように、どこの国であれ「自国優先」を貫くだけでは、たとえ争いに勝ったとしても幸せにはなれないのです。先月、Amazonプライムで『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』という映画を観ました。トランプ大統領の自伝的映画です。映画の中で、トランプ氏は「勝利の方程式」を師匠から学んでいきます。勝つためのルールは「とにかく攻撃すること、非を認めないこと、勝利を主張し続けること」だそうです。
この映画を観ますと、今のトランプ大統領のやり方に合点がいきます。彼は、師匠から授かったルールを忠実に実行しているだけです。ただ、この映画には結末がありません。理由は簡単。トランプ氏の人生はまだ続いているからです。トランプ氏を見ていますと、「機を見るに敏」という言葉が思い浮かびます。自分が有利になる「機」を捉える能力に長けていて、その積み重ねで大統領にまで上り詰めました。
しかし、世界から戦争・紛争をなくすには、「機」を捉えるだけでは不十分です。トランプ大統領にしてみますと「世界には興味はない。大事なのはアメリカだけだ」と思っているかもしれません。でも、今の時代、一国だけが繁栄することはあり得ません。グローバル化が進むこの世界で、アメリカだけが偉大になることなど不可能です。そのことに、トランプ大統領が一日も早く気づいてくれることを願っています。
「Make America Great Again(MAGA)」ではなく、
「Make the World Great for the First Time(MWGF)」
でしか、人類は幸せになれないのです。
じゃ、また。