<勝つための手段>

pressココロ上




お笑い芸人の宮迫博之さんと田村亮さんの記者会見が開かれました。僕が見たのは夜の情報番組でのダイジェスト版ですが、二人が涙ながらに会見している姿からは二人の真摯な思いが伝わってきました。

しかし、世の中にはいろいろな人がいますので、僕と同じ感想を持つとは限りません。中には、批判的に受け取る人がいてもおかしくはありません。同じ光景を見ても、人それぞれに感じ方が違うのは、人それぞれが異なる感性を持っているからです。涙ながらの会見も「白々しい」と感じる人がいても当然です。

ですが、会見を伝えるマスコミは事実をそのまま伝えることが求められます。二人の会見の様子や雰囲気をその場にいない人たちにできるだけ「そのまま、ありのまま」に伝える義務があります。マスコミにはその責任があります。

しかし、マスコミで働いている人たちも人間ですから、ときには「そのまま、ありのまま」から少しばかり外れることはあるでしょう。ですから、情報の受け手はそれも含めて情報を理解する能力が求められます。「少しばかりの逸れ」は許される範囲のものです。

それに対して情報を意図的に「曲げて」または「歪めて」伝えようとするマスコミがいます。こうしたマスコミは、マスコミとしての資格がありません。「曲げて」または「歪めて」伝えようとする理由は、自分たちの考えている方向へ情報の受け手を導きたいからです。これは、まさしく「情報操作」です。

あとからのネット記事によりますと、幾人かの記者は二人を陥れようとするような質問をしていたようです。例えば

「不倫報道の時には気持ちを『オフホワイト』と言っていましたが、今の気持ちを色に表すと?」

などですが、普通の感覚の持ち主であるならあの場には相応しくない質問とわかります。それ以外にも煽り質問や頓珍漢質問があったようですが、そこからはなにかしらの意図が透けて見えます。例えば、失言を言わせてその言葉尻をとらえて、悪者に仕立て上げることです。

そこには吉本興業への忖度があった、といったら言い過ぎでしょうか。一芸人と芸能事務所との力関係では、だれが考えても芸能事務所のほうが圧倒的に強大です。例え吉本に非があったにしても吉本を敵に回すのは得策ではありません。

今回の騒動で僕が注視しているのは、吉本の大物芸人の方々の対応です。現在の吉本の頂点にいるのは言わずと知れた「明石やさんまさん」ですが、さんまさんはだんまりを決め込んでいます。さんまさんの次の大物と言いますと、ダウンダウンさんですが、松本人志さんは昨夜「僕が動く」とツイッターしたそうです。

田村亮さんの相方である田村淳さんも大物の一人で、しかも社会的発言もする人です。なにかしらの動きがあってもおかしくありませんが、今のところは具体的な動きはしていないようです。

先ほど、松本さんが生出演している番組をチラと見ましたが、発言のたびに周りから笑い声が聞こえていました。その情景からは、この騒動をできるだけ深刻にしない流れを意図的に作っているように感じられました。

番組を最初から見ていた妻の話では、最初のほうでは松本さんはMCの東野さんと真剣に話していたそうですが、僕が見たときは笑いを取る話し方になっていました。その二人のやり取りに合わせて聞こえてくる周りからの笑い声にテレビ局の思惑を感じました。

今の段階で今後を予想するのは難しいですが、結局はテレビ界全体としては大きな変化はなく、時間とともに収束するように思われます。その理由は、「動く」とツイッターした松本さんがすでに「深刻にしない方向」へ動いていることと、ネット上に吉本興業を擁護する内容の記事を散見したからです。一部には、吉本興行を批判的に書いている記事もありましたが、吉本興行の実力と大きさを考えますと大きな変化は考えにくいところです。

今回の騒動を伝える記事を読んでいて僕が思ったのは、記事の使え方によって事実が違って見えることです。

たまたま昨日、ユーゴスラビア紛争時の戦争犯罪に関連する記事が2つありました。ユーゴスラビア紛争とは、ユーゴスラビアを束ねてきたチトー大統領が死去したことにより、民族間の対立が起きた紛争です。当時、ソ連で民主化が進みそれが世界に広がっていった中の一つの動きでした。

紛争または戦争が起きるとき、常に後ろで戦争をたきつける人たちがいます。感情の対立を煽り人々を殺伐とした心理に追い込んでいくのです。ユーゴスラビア紛争もまさにそうでした。それまで異なる民族でも仲良く暮らしてきた人々が、チトー大統領というタガが外れたことで紛争が勃発し憎しみ合うのです。

さらに、国際世論を味方につけるためにいろいろな策略まで行います。これまで幾度かこのコラムで紹介していますが、「戦争広告代理店」を利用する戦略です。国際世論を味方につけるために、自らをかわいそうな被害者のように仕立て上げるために広告代理店と契約をしたのです。代理店の作戦の中には、国連でのスピーチ原稿の作成までありました。

もちろん、戦争においては簡単に正義と悪者を決めることはできません。

そこで重要になってくるのは「自らを被害者にして味方になってくれる世論を形成すること」です。戦争広告代理店はそうしたことを請け負っている企業です。言うまでもなく、そうしてできた世論が本来の人々の気持ちや意識を表していないのは当然です。

トランプ大統領の支持を獲得する手法はまさしく「感情を煽る」やり方です。最近では民主党の非白人系女性議員に対して、「もともといた国に帰ったらどうだ」と書き込んだことが問題視されています。これまでの米国大統領では考えられない意見ですが、トランプ支持者の集会では「帰れ!帰れ!」が連呼されてそうです。

チャーチルは「民主主義は完璧なシステムではない」と喝破していますが、米国では全体の4割近くの支持を得ると大統領になることができます。トランプ大統領は、その4割の人を惹きつける言葉を投げかけることで大統領になりました。それが一部の人だけが幸せになる言葉だとしても、大統領になれるのです。

しかし、一部の人だけが幸せになる社会のあとにやってくるのは分断であり、争いです。情報の受け手はそこにまで考えを思いめぐらせる必要があります。そうでなければ、後ろで争いを起こそうと策略している人たちの思うつぼにはまることになります。

私たち主権者は、情報の真実性とその情報がもたらす先の社会を想像する力を持つことが必要です。自らが支持を得たいがために対立を煽るような言葉に流されないように気をつけることが大切です。

「勝つためには手段を選ばない」ような人には一票を入れてはいけないのです。

じゃ、また。




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