<庶民と著名人の違い>

pressココロ上




ラグビーワールドカップがはじまり、メディアではラグビーを取り上げることが多くなっています。自国開催ですから当然盛り上がる必要があり、メディアが取り上げるのも当然のことです。こうした状況はラグビー関係者がいろいろと考え、対策を練った結果ですから、反対にもしメディアで取り上げられていなかったなら、ラグビー界の幹部の方たちの無策ぶりが批判されることになります。ラグビー関連のニュースがマスコミに登場することは、関係者の努力の賜物以外のなにものでもありません。

その関連だと思いますが、一昨年にお亡くなりになりました平尾誠二さんについて報じる映像を見ることが増えています。言うまでもなく平尾さんとは同志社大学から神戸製鋼へ、そして日本代表、さらに代表監督まで務めた「ミスターラグビー」とまで言われていた人です。

また偶然か計算づくかはわかりませんが、ノーベル賞受賞者の山中伸弥教授が平尾さんとの友情関係をつづった本を出版していることも影響しているのかもしれません。おそらく両方が絡み合っての平尾さん報道ではないでしょうか。

僕の年代でラグビーと言いますと、やはり新日鉄釜石の7連覇と松尾雄二さんが一番に思い出されます。釜石という日本の中心から離れた地方の選手が、しかもラグビーのエリートでない若者が、雑草魂でトップに上り詰めていく様に感動した人は多かったはずです。

70年代と言いますと、競馬界ではハイセイコーという地方競馬出身の馬が中央競馬に進出し、エリートの馬たちを抜きさしていく姿が社会現象にまでなっていました。雑草がエリートに勝つ構図が当時の日本人の心を掴んでいたように思います。「あしたのジョー」が社会現象になったのはこの少し前です。

新日鉄釜石の次にラグビー界の人気を押し上げたのが平尾さん率いる神戸製鋼でした。奇しくも神戸製鋼も7連覇で終わってしまうのですが、平尾さんはそれまでの根性主義とは一線を画したラグビーへの取り組み方をしていました。ラグビー界に新風を吹き込んだという意味でも平尾さんはラグビー界に必要な人材でした。その平尾さんが53才という若さでお亡くなりになりました。

僕が平尾さんの訃報に接したとき、少し訝しげな気持ちになったのですが、それは死因が伏せられていたからです。死因が伏せられていましたので、特別な事情がある事故なのかそれとも病気なのかもわかりません。しかし、普通に考えますと病気です。ですが、病名を伏せる理由などあるのでしょうか。僕が怪訝に思ったのも当然です。

仮に病気だとしますと、悪意のある想像をしますと、「世間に知られては困る病名だから」ということになります。例えば、病名によって個人のプライバシーが暴かれ、「尊厳が踏みにじられる」というような理由です。

しかし、これだけの有名人で品行方正なイメージがある平尾さんが人に知られては困る一面があるとは、どうしても考えられませんでした。結局、結論が出ず曖昧なまま時間が過ぎていきました。

それからどれくらい経った頃でしょう。記憶が定かではないのですが、平尾氏の病名をなにかで知ることになりました。病名は「胆管がん」でした。ですが、そうなりますと逆に疑問が沸き起こります。死因といいますか、病名を公表しなかった理由が思い浮かばなかったからです。「胆管がん」を公表して困ることがあるのでしょうか。または迷惑をかけることがあるのでしょうか。

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このコラムで報告したことがありますが、僕は6年ほど前に心臓の手術をしました。健康な人に比べて心臓の鼓動が速く波打つ不整脈という病名でした。この病気は、心臓を動かす電気系統が通常よりも多かったことから起きるようでした。ですから手術は無駄に多くなっている電気系統を焼き切るのですが、その手術の方法が驚きでした。足の根本からと、肩のあたりからの両方からカテーテルを通して電気系統を焼き切る手法でした。

医学的には「カテーテル・アブレーション」という治療法らしいのですが、速い人では15分程度で済む手術だそうです。僕の場合は「焼く部分が多かった」ということで1時間以上かかりましたが、無事に終えることができました。それにしても医学の進歩は素晴らしいものがあります。

手術のあと健康保険組合から「保健師さんから指導を受けてほしい」という通知がきました。手術のあと定期的に通院して薬を常用していたのですが、それは健康保険を使う頻度が高いことになります。健康保険組合は医療費削減のために面談をして病院の利用の仕方を啓蒙しているようでした。

後日、保健師さんの訪問を受け、健康状態などをいろいろとお話したのですが、20代後半の看護師さんの資格を持っている女性でした。その話の流れで僕の心臓手術の話になり、その話から心臓手術の名医と言われている天野篤教授の話になったのですが、その保健師さんは、天野教授と同じ病院で働いていたことがあるとのことで話が盛り上がりました。

天野教授が有名になったのは天皇陛下の心臓の手術をしたことがきっかけです。僕はその保健師さんに「あれだけ有名だと一般の人が手術を受けるのはほとんど不可能なんでしょうねぇ」と言いますと、強めの声で「そんなことないです。病院は患者さんには平等で公平に対応しますから」と反論してきました。

僕としては、世間話程度の感覚で軽い気持ちで話したのですが、憤慨とまでは言いませんが、本気で反論してきたのに驚きました。医療界にいる人としての矜持のようなものが感じられ、好感しました。

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ラグビーワールドカップが近づくにつれて、山中教授がマスコミに出る機会が増えているように思います。平尾選手との交流についての本も出版していることも関係しているかもしれません。たまたま本屋さんでその山中教授の本を手にしてページをめくっていて、ふと思いつきました。

「平尾さんが病名を伏せたのは、山中教授への配慮かも…」

山中教授は臨床医ではありませんが、立派な医師です。言うまでもありませんが、並みの医師とはレベルが違います。その山中教授が平尾さんの胆管がんをなんとか治そうと手を尽くしていたことは想像にがたくありません。たまたま見たテレビ番組でも「山中教授が、平尾さんに『いい治療方法が見つかりました』と話し、喜んでいる平尾さん」の再現ドラマが放映されていました。

平尾さん、もしくは遺族の方は「山中教授が治療に奔走してくれたにもかかわらず、病気が治らなかったことで、山中教授が批判にさらされることを憂慮した」のではないでしょうか。山中教授の「平尾さんとの友情を綴った本」を読んでいて、そんな思いが浮かんできました。

平尾さんが病名を伏せたのは、「山中教授への慮り」のように思います。

一見しますとこのエピソードは、平尾さんと山中教授のお互いを思い遣る優しさを示しているのですが、もう少し深く考えてみますと、「著名人と一般人では病院・医師の対応に差があること」も示しているように思えます。

所詮、、、庶民は…。

じゃ、また。




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