お笑い業界とスポーツ業界と出版業界

pressココロ上




タイトルに3つの業界をあげましたが、共通する点は「お給料性」ではないところです。もちろん会社勤めをしている業界関係者もいますが、中心となって活躍している人たちは、いわゆる「個人事業主」という業態で働いています。今ふうにいいますと「フリーランス」でしょうか。具体的には、お笑い業界では「芸人」、スポーツ業界では「選手」、出版業界では「作家」と呼ばれています。

これらの人たちは「お給料性」ではありませんので、売れなければ収入はほぼゼロです。「売れなければ」を言い換えますと、「結果が出なければ」となります。求人雑誌ふうに言いますと、「出来高制」です。ただし、普通の「出来高制」と違うのは、うまく当たれば相当な収入になることです。その意味で言いますと「歩合制」のほうがふさわしい表現かもしれません。

お笑い業界で「収入」の話になりますと、やはり吉本興業が話題に上がります。真実かどうかはわかりませんが、売れる前の新人さんは「日当が500円」という話はよく聞いた話です。しかし、一旦売れ出すとものすごいスピードで収入が莫大になるようで、僕が最初に聞いたのは、漫才コンビB&Bの島田洋七さんの話でした。

嘘か誠か…。

いつもたくさんのファンレターをもらっていたそうですが、毎回マネージャーさんからデパートでもらうような大きな紙袋に入れて渡されていたそうです。ある日、マネージャーさんからいつもの紙袋をもらったので、帰宅してから奥さんに「押し入れにしまっておいて」と渡しました。

ある日、たまたま奥さんが押し入れの中を見る機会があり、その袋の中を開けてみたら全部が一万円札だったそうです。仮にネタとしても、それくらい芸人さんは「売れる」と半端なく収入が増えるようですが、今では多くの人に知られることとなっています。

ですが、「売れる」までが大変です。今では芸人業界でも収入が多いトップレベルにいる有吉弘行さんですが、そのどん底時代は3食をとるのもままならず、先輩におごってもらいながらしのいでいたそうです。そこまで追いつめられるのは、報酬が「歩合制」だからです。どんなに時間をかけてネタを考え、パフォーマンスを練習しても受けなければ報酬は発生しません。

一昨年、吉本興業はいわゆる「闇営業」問題で注目を集めましたが、結局は落ち着くところに落ち着いたように思います。結局、芸人さんの報酬が「歩合制」から「お給料制」に変わることはありませんでしたが、これは芸人さん側も「売れてこそ、ナンボ」という考え方を認めているからです。両者が納得しているのですから、問題はありません。

スポーツ業界はさらにわかりやすい世界です。野球にしろサッカーにしろ、監督や幹部など上層部に認められたなら報酬は爆上がりします。億はもちろん数十億円も上がるのがスポーツ業界です。まさにドリームの業界です。

しかし、スポーツ業界には評価がわかりやすい場合とそうでない場合があります。例えば、ボクシングなど個人で行う競技は勝敗がわかりますので評価は容易です。ですが、チームスポーツの場合は事情が少し変わってきます。例えば、サッカーの場合は直接得点をする人だけがチームの勝利に貢献しているわけではありません。得点する選手をサポートする選手の実力が大きくものをいう場合もあります。

このように直接結果に結びつかないプレーの場合、その評価に監督や幹部の個人的資質が影響することがあります。ここがトラブルが起きやすいところで、上層部との関係性が悪いことが原因で移籍する選手の話は枚挙にいとまがありません。しかし、ある程度成功している選手の場合は移籍が行われやすいですが、まだ成功前の選手の場合は悲惨です。

今でこそレジェンドと言われているイチロー選手ですが、プロの世界に入った当初は結果を出すのに苦労していました。打撃フォームが独特だったことでコーチから認めてもらえなかったからですが、相性の合うコーチにめぐり会っていなかったなら芽が出ないまま野球人生を終わっていたかもしれません。こればかりは神のみぞ知るです。

実績を残していない新人などが相性の合うコーチにめぐり会えないなら、試合に出ることさえ困難です。いくら他人より練習をし努力をしても一銭の報酬ももらえません。報酬は結果でしか判断されない業界だからです。そうした考え方が当然となっているのがスポーツ業界です。

今、ある電子メディアが炎上しています。約2ヶ月の間に3度も炎上していますので尋常ではないレベルです。この電子メディアでは編集という役割の方が作家さんについているらしいのですが、このシステムは出版社と同じです。つまり、作家さんの生殺与奪権を編集さんが握っていることになります。

作家さんは完全に「歩合給」です。連載が決まりますと「出来高制」となる部分もあるようですが、お給料性のような基本給はありません。ですから、連載が決まっていない場合、創作活動はすべて無報酬料ということになります。

以前このコラムで書いたことがありますが、僕が営んでいたコロッケ店には週刊少年ジャンプで新人賞をとって上京してきた青年が常連客として買いにきてくれていました。その漫画家の卵さんは有名作家さんのアシスタントもしていたようですが、僕のお店に買いに来ていたときは、マックでアルバイトをしていました。アルバイトをしないと生活できなかったからです。

出版業界も「売れる」までは大変です。しかも、作家として生き残れるのは数多いる卵さんたちの中のほんの一握りです。その生殺与奪権の多くを握っているのが編集者さんです。ですから、卵さんたちの中に編集者さんに気に入られるようにと日々励むことになります。そうしますと、いつしか編集者さんは勘違いをしてくる人もいます。

今年前半には、「自分は偉い」と勘違いした著名編集者さんが批判された事件もありました。今回炎上したメディアも同じ問題が根底にあるように思います。売れている作家さんにはペコペコし、卵の状況の人も含めて売れていない作家さんには横柄、偉そうに振る舞う編集者さんです。相手によって態度を変える人が信用できないのは、どの業界でもいつの時代でも同じです。

そのような不埒な人間が闊歩している業界はいつしか滅びるしか道はありません。出版業界は年を追うごとに売上げが落ちていっていますが、「驕れる者久しからず」が当てはまるのかもしれません。似たような業界に放送業界がありますが、プロデューサーの肩書の人たちがタレントの生殺与奪権を握っています。その放送業界も凋落ぶりが伝えられています。

強い立場にいる人ほど、他人に対する振る舞いを慎重に処する必要があります。しかし、現実はそうなっていません。

僕は小さい頃、「人間は大人になると誰でも人格者になる」と思っていました。なのに…。

じゃ、また。




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