<王道を歩む人>

pressココロ上




本日のコラムで僕が言いたいことの結論を最初に書きます。

「正しい道、真っ当な道、いわゆる王道を歩んだからといって成功するとは限らない」。

先々月と少しばかり古いですが、7月25日に「元西武百貨店社長の和田繁明氏がお亡くなりになった」というニュースがマスコミで報ぜられました。僕の中では、和田氏はとても印象に残る経営者でしたので、この報に触れたとき、氏についていつか書こうと思っていました。

僕が和田さんに注目するようになった背景には、自分が新卒で入社した企業が当時ものすごい勢いで発展していたスーパー業界だったことや、また学生時代に大手百貨店でアルバイトをしていたことがあります。もちろんそのあとに飲食業という、流通業と共通する部分である「お客様と直接接する業界」だったことも関係しているのですが、そうした自分自身の経歴もあり、流通業界全般にはずっと関心を持っていました。ですのでマスコミ等ではついつい流通業界に目が向くようになっていました。

そのような状況で、なぜ特段に和田さんという個人に強い印象を持っていたかと言いますと、本日のタイトルである「王道を歩む人」というイメージが強かったからです。そのイメージを抱くきっかけとなった出来事があるのですが、それは西武百貨店の会長に就任した和田さんが、社員に対して商品を包む技術「包装スキル」のアップを求めていたことです。

*本日書く内容はあくまで僕個人の記憶の中でのことですので、ときには正確でない情報もあるかもしれません。ですので、そのような心づもりで読んでいただきたき、その節は何卒お許しいただきたく思います。

僕がスーパーに入社したころは、高卒で入社した女性社員は必ず包装のやり方を研修で身につけていました。こうしたスキル習得はスーパーよりもさらにレベルの高い百貨店では一層強く求められていたはずです。しかし、次第にそうしたスキルはないがしろにされるようになったようで和田さんが百貨店の会長に就任したとき、社員の中で商品をきれいに包装できない社員が少なからずいたそうです。そうした状況を改善するよう、和田さんは部下に指示を出し、それを受けて社内コンテストなどが開かれるようになったそうです。

大企業の社長・会長ともなりますと、現場の状況にはあまりタッチせず、経営のことだけにかかわろうとする経営者がいます。しかし、和田さんは現場の状況をとても重要視しており、「現場がしっかりと動いて初めて経営は成り立つ」という考えの持ち主でした。ちなみに、和田さんのほかに僕が尊敬している経営者に、元伊勢丹専務でのちに銀座松屋の会長に就任する「山中 鏆」さんという方がいます。

その後、僕が「お、この人いい!」と思ったのは2012年に伊勢丹の社長に就任した大西 洋さんでした。経済誌のインタビューなどを読みますと、大西さんも現場を重視し、現場で働いている人をとても大切にしていて、実際に現場で働いている人たちが働きやすい環境を作ることに力を入れていました。もちろん、経営的な数字の面でも結果を残していたからこそトップにまで上りつめることができたはずです。

しかし、大西氏はのちに失脚してしまいます。当時もかなりマスコミで報じられましたが、僕が思うところ、突き詰めると権力争いのように感じました。現在の三越伊勢丹HDは2007年に三越と伊勢丹が合併して誕生した会社ですが、どんな業界でも合併した企業では二つの会社の融和は簡単なことではありません。

大分昔ですが、「伊勢丹な人々」という本がベストセラーになったことがあります。この本は川島容子さんという方が、当時の伊勢丹の素晴らしさを解説しているのですが、伊勢丹はファッション関連で数少ない成功している百貨店でした。その伊勢丹と合併した三越の社員が、合併した会社で肩身の狭い思いをしたであろうことは容易に想像がつきます。そうした不満が大西社長の追い落としの背景にあったように想像しています。

次に僕が「王道を行く人」として思い浮かぶのは元ファミリーマート社長の澤田貴司さんです。澤田さんについてはこのコラムで幾度か取り上げていますが、この方も現場を大切にする経営者というイメージがありました。ファミリーマートの社長に就任する際も、社長でありながらなんと店舗で実務研修まで体験しています。「現場を大切にする」経営者の真骨頂といえるものでしたが、それ以外にも現場を重視する様々な改革を断行していました。

どんな企業でもいえることですが、「改革」には常に抵抗勢力が生まれてきます。ファミリーマートも例外ではありませんでした。それまでのコンビニのやり方を真っ向から否定するような改革もありましたので、部下の中には反発心を持つ人もいたでしょう。僕からしますと、澤田さんの改革は「現場を重視した実に真っ当な考え」と映っていましたが、周りからはあまり支持をされていなかったようです。結果的に、経営的には評価に値する結果は出せず、社長退任を迫られたのも致し方ない面はあります。

余計な推測をしますと、澤田さんは元々は伊藤忠商事にいたのですが、そこから独立してファンドを設立したり、ユニクロの副社長なども務めたのちにファミリーマートにきています。社長を退任したのは、ファミリーマートが伊藤忠の完全子会社になったタイミングで、その伊藤忠には天皇とまで言われている岡藤さんが君臨しています。その岡藤さんは結果だけで評価する厳しい経営者です。そうしたことも澤田さんの社長退任に影響しているのではないかと思っています。

これまで僕が好きな経営者を紹介してきましたが、共通しているのは「王道を歩む」ことをモットーにしている人たちです。僕は「金儲けは大切だけど、もっと大切なことは『どうやって儲けるか』だ」と思っています。手段を選ばず金儲けを目指すなら、それこそ泥棒でも詐欺でも犯罪でも、なんでもやればいいことです。究極的にいうなら強奪も金儲けの手段になってしまいます。

強奪で思い浮かぶのは、やはり今はロシアのウクライナ侵攻です。まさにウクライナ侵攻は国土の強奪でしかありません。今回のウクライナ侵攻に際していろいろな記事を読みましたが、かつてウクライナはソ連に国家を強奪され数百万人の死者を出す惨劇を経験しています。食料をロシアに無理やり徴収されウクライナの人々は食べるものがなくなり餓死したのが原因でした。ある映画では「小さな子供が実の兄の人〇を食べる話」が描かれていました。このように、強奪される側は悲惨な目に遭うことになります。今回もウクライナが負けることは同じ悲劇が生まれることを意味します。西側諸国は最後までウクライナを支援する必要があります。

話を戻しますと、僕を「王道を歩む」という思想に導いてくれたのは、二宮尊徳さんの「道徳のない経済は犯罪である。経済のない道徳は寝言である」という格言です。二宮さんは江戸時代の思想家ですが、この格言で一番驚かされるのは、はるか昔の江戸時代に「商売の核心に迫る思想」を悟っていたことです。江戸時代といいますと、悪代官や悪徳商人の越後屋などがいた時代です。そんなはるか昔にすでに倫理と経済の両立を唱えていたことには、尊敬以外の言葉が思いつきません。僕の中では「二宮尊敬」さんです。

「経営の王道」は確かに立派な考え方ですが、現代ではそれだけでは立ちいかないのも事実です。今回紹介した3人の方々も「王道の手法」以外の部分で挫折していました。そうした要素にもうまく対処してこそ王道を歩むことができるのかもしれません。しかし、そうしたことがわかったのも「王道を歩む人」がいたからこそです。その意味において、挫折したとはいえ、王道を歩んだ人たちの足跡は無駄ではありません。

なお、今週のコラムの一番のウリは「二宮尊敬」さんですた。

注:「ですた」は間違いではなく、わざとです。(^o^)

じゃ、また。




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