<愛社精神>

pressココロ上




 韓国では沈没船事故がいまだに韓国社会を揺るがしているようですが、この事故で最も批判されるべき張本人は船長です。ニュースなどで幾度も放映されていますが、まだ乗客が残っておりしかも待機するように船内放送をしておきながら、自らは真っ先に逃げ出している映像は噴飯ものです。
 先日、その船長の身分が非正規社員ということが報道されていました。そのような身分であるなら「真っ先に逃げ出す」という行動に出たのもうなづける部分があります。正規社員でもない従業員がどうして自らの命を危険に晒してまで仕事を忠実に行おうとするでしょう。
 ブラック企業という言葉がありますが、ブラック企業かどうかの判断は難しいものがあります。一般的には離職率を判断材料にしていますが、正規社員と非正規社員の割合も判断材料のひとつになるかもしれません。
 以前、コラムでも紹介したことがありますが、大手外食チェーン店で「名ばかり店長」という問題がありました。これは残業代の支払を減らすために、一般社員を管理職に昇進させるやり方でした。こうしたやり方の発想も根本的には、正規社員を減らして非正規社員を増やすことと同じです。このチェーン店は元々正規社員は少人数でほとんどを非正規社員で店舗運営をしていましたので、そのやり方をさらに強化させるものでした。
 さらにいうなら、この企業は直営店をFC化することも進めていました。僕に言わせるなら、FC化もまた正規社員を非正規社員に置き換える発想のひとつです。
 企業側からしますと、正規社員と非正規社員の違いは人件費の違いです。正規社員に比べ非正規社員の人件費はトータルで比べるなら半分程度になるのではないでしょうか。しかし、従業員側からしますと、その違いは企業に対する思い入れの違いです。言葉を変えるなら愛社精神の違いといえます。
 普通に考えて、愛社精神の強い従業員が多い企業ほど成長する企業のはずです。会社に愛着があるのですから、一生懸命働きますし、会社に尽くそうとするからです。そのような従業員が多い企業ほど成長して当然です。
 企業は人件費を抑えるためにいろいろな方法を考えますが、企業が雇用におけるモラルを放棄した人件費削減方法には大きなリスクが潜んでいます。どのようなリスクかといいますと、従業員における愛社精神が減少するリスクです。
 大手の牛丼チェーンが「人手不足で閉鎖に追い込まれている」とネットで話題になっていたとき、僕の生活圏内においてそのチェーン店は「パワーアップ工事中」と貼り紙をして閉鎖されていました。ですから、僕の中では「人手不足閉鎖」はガセネタだと思っていました。
 ところがその後、人手不足が事実であることが報じられ、しかも人手不足の状況がこのチェーン店に限ったことではなく外食産業全般に及んでいる実態まで報じられています。先日のテレビでは、バイトの奪い合い合戦が起きていることを伝えていました。
 今のこの状況と同じ状況になったのが1989年頃のバブルの頃です。このとき僕はラーメン店を営んでいましたが、求人広告を打ってもバイトが集まらず苦労した思い出があります。そのときのようすを体験談に書いていますが、飲食店というのは人海戦術の最たるものですので、バイトが集まらなければ閉店も現実を帯びてきます。
 この牛丼チェーンが人手不足に陥ったのは「バイトの退職が相次いだから」といわれています。もし、バイトに愛社精神があったなら閉店に追い込まれるほど退職が相次ぐこともなかったでしょう。この現象の先にあるのが、韓国船の船長のとった行動です。
 ここにきて、幾つかの企業が非正規社員を正規社員に昇格させる動きを見せています。その実態が実質的にどのようなものなのかはっきりしませんが、動きとしてはよい傾向だと思っています。
 これまでは、企業が正規社員を非正規社員に置き換える経営方法をとっていても、働く側はそうした動きに対抗する術を持っていませんでした。ですから、このような動きになったことは喜ばしいことです。
 こうした一連の流れをみていて、資本主義について考えることがあります。経済学者の中谷氏はいわゆる転向本といわれる著作の中で「神の手は存在しないので、政府が手を加えることも必要だ」と書いていますが、もしかすると今回のようなケースは神の手のひとつかもしれません。
 それはともかく、愛社精神を持っている従業員が多い企業ほど健全であるのは間違いありません。韓国船の事故では、結局運営会社の経営者も逮捕されましたが、これも当然のことのように思います。
 今後は、従業員が愛社精神を感じるような企業だけが生き残っていく社会状況になっていけばいいな、と思っています。
 じゃ、また。




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