<的確な状況判断>

pressココロ上




 東京は暑い日が続いておりますが、みなさんはいかがお過ごしでしょうか?
 報道によりますと夏休みの連続休暇が昨年より1.6日増えたそうですが、商売を営んでおります僕としてはそんなこととは無縁です。僕の夏休暇は13日~15日の3日間、有効に使いたいと思っております。
 テイクアウトの商売をはじめて初めての夏ですので「売上げはどうなのかなぁ」と心配していました。
 ラーメン店時代は1年を通して最も売上げがよかった月は8月でした。夏休みに入り家族で出かける機会が多くそれに伴って外食する場面が増えるからです。たぶん、ファミレスなども同様だと思います。つまり、「人が動けば売上げが上がる」ということです。
 外食産業において「人が動く」という要素は大切です。普段は家庭で食べているのを外に出かけることにより外食するきっかけになるからです。
 テイクアウトの業態である揚げ物店は「夏場は売上げが落ちる」という情報もありましたが、反面夏休みに入り子どもたちが遊びまわり「おやつ代わりにに買う」、または先ほどのケースのように、家族で出かけその「帰りに買う」、といったこともあるのではないかと思っていました。
 結果は…大幅減でした。夏休みに入り、というより暑くなってから売上げの減少は顕著でした。夏休みに入ってもその流れは変わりませんでした。
 実は、春休みは売上げが大幅増だったのです。開店以来の最高記録は春休み期間中の1週間でした。しかし夏休みは「休みである」ことのメリットを「暑さ」が吹き飛ばしているようです。早く秋が来ることを願っている今日この頃です。
 そんな日々を過ごしている僕たち夫婦の仕事帰りでの出来事です。
 駅の改札を出て階段を降りロータリーに出ますと、大きな叫び声が聞こえてきました。周りを見渡しますと歩行者のほとんどの人がロータリー中央付近を見ています。僕たちも夫婦も歩行者の人たちが見ている視線の先を見ました。すると20才前後の若い男性と50才過ぎくらいの中年女性が言い争いをしています。その横には空車のタクシーが停まっていました。
 若い男性の身なりは上は白の開襟シャツに下は黒っぽいスラックスにスニーカーです。左手にはカバンを、右手には携帯を持ち、携帯のボタンを押しながらなにやら叫んでいます。見ようによっては高校生にも見える服装です。
 対して中年の女性は薄手のシャツとスラックス、一見すると上品な貴婦人の雰囲気を漂わせています。そして上品な雰囲気に不似合いな怒鳴り声を発していました。
 最初はタクシーとのトラブルかと思いましたが、タクシーの運転手の方も驚いたように二人を見ているだけでしたのでタクシーは無関係のようでした。
 しばらく見ていますと、若い男性は少し離れたところに停まっている乗用車に向かって叫んでいるのがわかりました。乗用車は薄いグレーのワーゲンです。乗用車の中を見ますと、そこには運転席にやはり50才過ぎくらいの女性が乗っており後部座席には若い女性が乗っていました。若い女性は言い争っている二人を窓ガラス越しに見つめ今にも外に飛び出しそうな体勢をとっていました。運転席の中年女性がそれを引き止めている感じがします。
 僕と妻はこの様子を歩きながら見ていたのですが、二人に近づくにつれ叫び声の言葉が聞き取れるようになりました。若い男性はこのように叫んでいるのでした。
「○○○、逃げろー! 逃げろー!」(○○○は若い女性の名前と思われます)
 この言葉を打ち消すように中年女性は叫んでいました。
「あなた、なに言ってるの! いいかげんにして!」
 若い男性が叫びながらワーゲン内にいる若い女性に近づこうとしているのを中年女性が押しとどめようとしています。ワーゲン内の若い女性は窓ガラスに顔を押し付け言い争っている二人を見ています。運転席の中年女性は上半身をねじり後部座席の若い女性の肩に手をかけています。
 僕には、若い女性が逡巡しているように思われました。若い女性は「車外に飛び出そうかどうしようか」迷っているのです。
 数秒後、若い女性は運転席の中年女性の腕を払いのけると車を飛び出しました。すると運転席に座っていた中年女性も勢いよくドアを開けました。それを見た若い男性はさらに大きな声で叫びました。
「そうだ! 逃げろー!」
 車外に飛び出した若い女性はロータリー内を逃げ回ります。そしてそのあとを運転席に座っていた中年女性が追いかけます。そしてさらにそのあとを若い男性が追いかけます。さらにさらにそのあとを言い争いをしていた中年女性が追いかけます。さながら円形のロータリーが運動会場のようになってしまいました。
 しかし当人たちは必死です。逃げる者追う者どちらも本気で走っています。追いかけている中年女性の片っ方の靴が脱げてしまいました。それでも構わず追いかけています。そして中年女性は追いかけながらこう叫んだのです。
「たすけてー!」
「えっ!?」
 僕は不思議な感覚に襲われました。追いかけている側が「たすけて…」。普通は逃げている側が発する台詞です。
 しばらくすると今度は逃げている女性も叫びました。
「たすけてー!」
 逃げる側追う側、両方が「たすけてー」と叫んでいる奇妙な状況になっているのです。いったい本当は「どちらが助けられるべき人」なのでしょう。
 これだけの騒ぎになったのですから近くの飲食店からも人が出てきたりしました。誰かが警察に連絡したのでしょう。しばらくするとパトカーがやってきました。
 異なる意見や主張がある場合、どちらが正しいのかはそれぞれの内容をじっくり聞く必要があります。安易に最初の印象やイメージで判断することは危険です。間違っても一時的な感情で判断してはいけなのです。
 民主党が「郵政民営化凍結」なんて言い出しているよなぁ…。
 家に帰ってから「駅のロータリー事件」のことを考えました。
 あの若い二人は親に交際を反対され別れさせられようとしていたことに抵抗していたのではないでしょうか。大人に反対されても愛を成就したい二人。ああ、なんとロマンティックな話でしょう。そう、ロミオとジュリエットのようです。
 僕は妻に想像力豊かにこの話をしました。そして言いました。
「ねぇ、僕たちも好きで好きでたまらない青春時代があったよねぇ。あの頃はお互いに愛し合ってたよなぁ」
 すると妻は見下したような顔で言いました。
「そんなことより、売上げ落ちてるのどうするのよ!」
 ああ、そうでした。一時の感情は長続きしないのでした。
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!





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